ロシアがウクライナ侵攻を開始して欧米諸国が一斉に経済制裁に踏み切った。さらに欧米諸国(日本を除くG7と欧州委員会)は26日には追加制裁としてついに最強の措置とみられる国際決済システム「SWIFT」(国際銀行間通信協会)からロシアの一部銀行を排除する、との共同声明を発出した。なお日本も岸田首相が27日夜に日本も本措置に参加すると表明した。
これにより、ロシアの銀行は、事実上、石油や天然ガスの輸出や工作機械、半導体の輸入などの外貨決済にSWIFTを利用できずに大きな支障をきたすことになる。これまでにSWIFTの排除を適用されたのはイラン、ベネズエラ、北朝鮮の三か国のみで、ロシアのような大国への適用は初めてである。
ただSWIFTからの排除は石油や天然ガスなどを輸入する欧州諸国等にも悪影響が及ぶため、ドイツやオランダを中心に強い反対があったと言われる。しかし、ロシアが強硬な姿勢を貫いているため、欧州諸国も一段と強力な措置が必要と姿勢を転じたものとみられる。
共同声明ではSWIFTの排除以外にもロシア中央銀行がBISなどに保有する外貨準備を凍結すること、プーチン大統領に近いとオリガルヒ(新興財閥)に対する「ゴールデンパスポート」の制限などにも触れている。共同声明の順番に沿って説明していきたい。
第一にはSWIFTからのロシアの一部銀行の排除である。ベルギーのブラッセルに本部を置くSWIFTでは1万1千の銀行が参加しており、メッセージング・システムにより安全、簡便な国際決済を提供している。Eメールで支払指図を出すような代替手段がとれなくはないが、決済の信頼性が大きく低下するので現実的には難しい。
今回はすでに発表されているズベルバンクやVTB銀行などロシア大手行を排除するとみられる。石油決済についてはイランやベネズエラなどの産油国で大きな支障をきたしてバーター取引や中国との元決済などで繰り回していたと言われている。
ただ今回はロシアの石油取引に限りSWIFTの決済から排除しないという噂もある。米国のバイデン大統領が11月の中間選挙を控えてこれ以上の石油、ガソリン価格の値上がりは致命的な非支持につながるので、石油価格の上昇をもたらしかねないロシアの石油取引排除には消極的ではないかとの憶測がある。
第二にはロシアの中央銀行の外貨準備運用の制限である。詳細はいまだ不明ながら、6,300億ドルのドル、ユーロなどで構成される外貨準備を勝手に処分することを制限するものである。IMFの特別引出権などのクレジットラインやBISに保有する外貨資産の取り崩しなどに制限を加えるものとみられる。
これによってウクライナ侵攻の戦費調達のほか、通貨ルーブルが下落した際に中央銀行が為替市場でルーブル買い・ドル(ユーロ)売りで介入することを妨げて通貨の暴落を誘うことを狙っているとみられる。
第三には「ウクライナとの戦争ならびにロシア政府の加害行動に便宜を図ってきた」関係者ならびに組織に制裁を加えると表現している。とくに富裕な投資家に対して一種の市民権売買とも言われてきた「ゴールデンパスポート」発行を制限する。英国などでは巨額投資と引き換えに滞在ビザやパスポートを迅速に発行、ロシアの富裕層が金融市場での制裁逃れに利用することを防ぐことなどを狙う。
ここで言う富裕層とは政府関係者や有力なオリガルヒ(新興財閥)を指す。彼らに対する締め付けを強化していくことを意味しているのであろう。内容的にも金融資産のみならず、プライベートジェット、豪華なヨットや大邸宅などの実物資産も対象にした資産凍結を狙っているとみられる。
第四には、制裁対象の個人、組織を特定し、その資産を凍結することで記入制裁の効果を確実にしたい。そのために大西洋をまたぐタスクフォースを来週にも立ち上げるとしている。さらに資産の隠匿、不法所得の移動を阻止するため各国政府間の連携をとっていくと謳っている。
欧米諸国は、経済制裁の対象として、これまでのイラン制裁などの経験から最も効力が高いことが証明されている国際金融決済の分野に制裁を広げたわけだ。まずは通貨ルーブルが暴落する恐れが指摘されている。さらに、先週、下落基調からいったん戻した先進国の株式市場に対する影響も注目されよう。