暗号資産(仮想通貨)として著名なビットコインが5月19日に急落し、一時は前日比30%安の3万ドル近くまで急落した。4月央に付けた6万5,000ドルという過去最高値からみると、半値以下に下がったことになる。
直接の背景としては中国人民銀行がSNSを通じて「製品販売やサービス提供の対価として仮想通貨で支払いを受けることを禁じる。」と発表したことだ。中国はかつて全世界の仮想通貨取引の90%を占めていた。
しかし、2017年に取引所が閉鎖され、その後も中国人民銀行は「仮想通貨はリアルな通貨とはみなせない」と再三明言、最近のビットコインなどの急騰についても投機的な行動と警鐘を与えてきた。自らが作り出して試験中のデジタル人民元を普及させたいという狙いもある。ただ付言すれば、ビットコインを生む「採掘」(mining)は安い電力料金を生かして今でも中国がトップとみなされている。
さらにはテスラ社のイーロン・マスクCEOが「テスラは15億ドル相当のビットコインを保有する」「テスラの販売する電気自動車(EV)の支払いにあたってビットコインの使用を認める」と今年2月に発表した。この動きを契機に3万ドル台にあったビットコインは6万ドル台まで急騰した。
しかし、その後「ビットコインの生成には、大型コンピュータによる採掘で大量の電力を消費して環境問題を引き起こす」ことを理由にEV購入代金としてビットコインの受け入れを停止するとともに、テスラ―社自身もビットコイン売却に動くことを示唆した。
ビットコイン相場はこのような中国人民銀行の投機抑制、テスラ―の方針転換が伝えられて急落するに至った。もっともテスラ―社はビットコインを長期保有する方針だと発表したあと、買い戻しが入り20日には4万2,000ドル程度に戻している。。
ビットコインはジェットコースターのように相場が上下する変動の大きさで知られていた。それでも世界的なカネ余りの中で相場が急騰してゴールドマンザックスやJPモルガンなどが富裕層を対象に投資信託やETFの販売を目指しているとも伝えられていた。
絵画やワインよりも値上がりが大きいからだ。しかし、一方で欧州中央銀行(ECB)は、ビットコインなど仮想通貨取引は実体がなく、17世紀におけるオランダのチューリップバブルや18世紀の南海泡沫事件を想起させると強く警告している。
このようなビットコインを投資対象としてどう考えるかは難しい問題である。金融の世界で知らぬ者はいないJPモルガンのジミー・ダイモンCEOは否定論者であったが、最近は前向きな発言が多い。筆者は、価格変動が激しく通貨とは呼べないうえ、各国当局の規制の埒外(らちがい)にあり安全な資産とは言えないこともあって取引したことは一度もない。
今回に限らず、2018年にビットコインのバブルが破裂した時にも16,000ドルから約1/5にあたる3,000ドルに急落したことが思い出される。また、相場急騰で2012年のビットコイン創設以来、1兆円以上の資金が詐欺や取引所からのスキャムで失われているので相場下落以外にも投資の危険は多いということに注意しなければならない。
さらにビットコインの採掘は大型コンピュータを回すため大量の電力を消費して発熱量も高いことから世界全体でのCO2排出量はギリシャ一国分にも相当するという試算もある。海外では環境問題の観点からビットコインを汚れた通貨(dirty coin)と論評する向きもいるほどだ。
しかし、一方でブロックチェーンという将来性の高い技術を使ったビットコインに注目が集まるのも当然ではある。しかも最近一年で約6倍になった資産に目の色を変えるのもわからないではない。筆者に投資判断を求める知人には「結論的にはなくなってもいいと割り切る」「全資産の2~3%程度を振り向けるくらいが限界であろう」と申し上げている。
先日、そば屋で隣の若い女性が「ビットコインで儲かっている。今度の夏のボーナスをもらったら大部分をつぎ込もうと思っている」という話が聞こえてきたが、これなどはお薦めしにくい投資戦略である。
ビットコイン投資のルールとしては繰り返しになるが、すべてを失うことを覚悟のうえで行うことだ。もっとも、個人向けのビットコイン取引所の調査では顧客の55%がビットコインの投資に絞っていると答えた、というから上記の女性のように相場の急騰に浮かれて熱くなっている人も多いことを示している。