新興国では1月(1/1~1/27日累計)の債券発行額が約12兆円(1,152億ドル)とすでに月間の既往最高額を更新した。
その理由は、第一に新興国でもコロナ感染が拡大しており、その対応として財政支出が急速に膨張したのをファイナンスするためだ。中南米、アフリカ、中近東諸国発行のソブリン債が急増したのはそのためだ。
第二には、米国でバイデン新大統領が誕生して大型経済対策を公約したため生じた米国債の利回り上昇だ。10年債利回りは10カ月ぶりの高水準となった。借り入れサイドとしては、金利水準がおそらく、いまが最低水準であるとみて超長期債で低利調達したいわけだ。
例えば、50億ドルの大型起債に踏み切ったサウジアラビアは、米国債とのスプレッドが12年債で1.3%、40年債で3.45%にとどまった。このほか、メキシコ、インドネシア(両国とも40年債)も超長期の起債に踏み切った。とくにサウジの隣国オマーンやバーレーンも30年債を起債している。中近東諸国はコロナ感染と石油価格の下落のダブルパンチ受けて資金調達が必要なためだ。
新興国の株式市場への資金流入も高水準を続けている。コロナ感染の拡大を反映して、昨年3月、欧米、日本など先進国の株価は大暴落をみた。このため、これらの株式市場から、昨年末まで3,600億ドルの資金がさらに新興国に流れ込んだ。2021年入り後も新興国への株式流入の動きは加速しているようだ。
バンカメの調査によると、現在、ファンドマネージャーの62%が新興国株式をオーバーウエィトにしている。新興国株式が2021年のアセットクラスで最もパーフォーマンスがよくなるとの見通しに基づいている。
新興国といえば資源輸出に依存して、債務負担が重しになってデフォルトが起きやすいと不安を持たれやすい。それに対する投資家の見方は以下のようなものである。
輸出に関しては新興国で軒並み第一の輸出国となっている中国への期待がある。投資家たちは、中国が他の主要国が大幅なマイナス成長となった昨年も+2.3%と唯一プラス成長となり、今年も8%程度の実質成長を見込まれていることで新興国の対中輸出増も保障されていると考えているわけだ。
さらに米国のバイデン新大統領の数兆ドルに及ぶ大型経済政策では、建設資材などを大量に使うインフラ投資を重視していることも新興国の輸出にとって明るい材料である。米国、中国という世界第一位、第二位の国の投資需要増によって新興国の主要輸出品である鉄鉱石、銅、アルミ、希少金属などの商品市況も強含むのではないか、とみられている。
債務問題もベネズエラ、アルゼンチンなどで大型のデフォルトが起きた。しかし、IMF、世銀などの国際金融機関による新興国に対する緊急支援やFRBとのスワップ協定によるドル資金の確保などに助けられて、多くの国で債務問題を回避するに至っている。
上記のようにFRB、ECBなど世界の中央銀行が生み出した潤沢な流動性が先進国よりも少しでも大きな利回りを探した(hunt for yield)結果、先進国から新興国の債券、株式に大量の資金流入が起きている。
しかし、そう都合の良いことばかり続くとは限らない。2021年入り後の米国長期金利の上昇と予想以上に強いドル相場は、新興国の株式、債券市場に悪影響を与える可能性がある。つまり、コロナウィルスを抑えるワクチンが普及して予想以上に米国景気が拡大して米国金利が上昇すれば新興国に対する投資を引き揚げてしまうであろう。またドルの上昇はドル債を発行して資金調達している新興国の政府と企業にその返済負担の増加をもたらす。
多くの新興国では、FRBの思い切った流動性供給、欧州、日本などの中央銀行による超緩和政策の恩恵などを受けて、パンデミックの混乱下でも容易にファイナンスが可能であった。しかし、世界的にこれほどの超低金利が続いたことはなく、その分、世界中で金利リスクが増大しているとも言える。新興国の政府、企業は金利上昇のストレステストを受けたわけではなく、事前に何が起きるのかを予知することは不可能である。