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市場が誤解したFRB 実は引き締めに及び腰

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【経済着眼】雇用重視の姿勢にまだ変化なし

公開日: 2021/06/21 (マーケット)

パウエルFRB議長=Reuters パウエルFRB議長=Reuters

俵 一郎 (国際金融専門家)

 米国連邦準備理事会(FRB)では6月16日の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催した。今回のFOMCは、5月の消費者物価が前年比5.0%とほぼ13年ぶり、食料・エネルギーを除いた指数でも同3.8%と29年ぶりの大幅な上昇率となる中で注目を浴びた。

 結果的にはFOMCメンバーのうち13名が従来24年中とみられたゼロ金利解除を23年中に前倒しした。また記者会見の席上でパウエル議長は「物価上昇が予想より大きかった」と認めた。

 しかし、ゼロ金利自体は維持されるのであるし、月間1,200億ドルにおよぶ債券買い入れスキーム(国債が800億ドル、住宅ローン担保債権が400億ドル)も当面続ける見通しである。ドット・チャートと呼ばれるFOMCメンバー(今回は18名)の予想一覧表が手直しされただけで、現実の金融政策で金融引き締めに動いたわけではない。「23年中」というのは再来年まで動かないということになる。

 そもそもFRBのパンデミック対策としての超金融緩和については大きな副作用が懸念されてきた。ラリー・サマーズ元財務長官は「もし米国でFRBの金融政策などで景気過熱が起きれば、借金が多くなって脆弱性を強めている世界経済にとって大きなリスクとなる」と警鐘を鳴らしてきた。

 実体経済をみると、個人消費が急速に拡大しているうえ、住宅市場もブームの様相を強めているほか、企業設備投資も拡大している。2021年の実質GDPはFRBの今回の見通しでも7.0%(前回6.5%)に上方修正された。

 一人1,200ドルに及ぶ所得補償の効果や失業手当の追加支給(週300ドル)などのパンデミック政策を受けて家計には過剰貯蓄(貯蓄総額のGDP比は実に15%)が存在しており、火砕流のように消費財の購入に向かうかもしれない。

 米国の5月の消費者物価(CPI)上昇率は2008年8月の5.4%上昇以来、ほぼ13年ぶりの上昇率となる前年比5.0%となった。食料・エネルギーを除いた指数でも5月は3.8%(4月3.0%)と92年6月以来の高い伸びとなった。

 昨年5月がパンデミックの影響から需要が激減して大幅に価格が下がった反動が出た、いわゆる「ベース効果」の影響も大きいことは事実だが、急速な需要拡大の影響も見逃せない。

 前月の4月(同4.2%)に続き高い伸びとなったCPIはいわゆるbig ticketと呼ばれる大型品目が大幅な上昇となった。とくに中古車(トラックを含む)価格は前月比で7.3%、前年比では20%を大きく越える高騰ぶりを示して全体の上昇の1/ 3を説明するほどだった。

 ロックダウンの長期化で新車生産の操業率が低下していたところに半導体ショックが加わって需要に追い付かず、その分が中古車需要に回った。そのほか、家具、航空運賃、ホテル宿泊代なども住宅建設ブームやワクチン接種の広がりに伴う旅行再開などから軒並み高となった。

 FRBでは、予想より上振れたとしつつも、いまが物価上昇率のピークであり、ベース効果の一巡などから秋口に向けて物価上昇も落ち着いていく、との見方を変えていない。

 一方で民間エコノミストや市場関係者の間では、ワクチン接種の拡大で経済活動の本格的な再開が見込まれること、自動車生産等における半導体ショック、住宅建設におけるウッド・ショック(カナダ材などの木材不足)と呼ばれるサプライチェーン上のボトルネックが早急に解消できそうもないと懸念する見方も多い。

 すでに多くの企業が投入コストの上昇を消費者に転嫁し始めている。国際的にみて原油、天然ガスなどのエネルギー食料、鉄鋼価格さらには銅、スズ、アルミなどの非鉄金属などの投入原料の価格が過去10年間に見られないほど一斉に上昇している。

 アンケート調査によれば中小企業の5割弱が販売価格を引き上げると答えている。これは61年以来の高いシェアであり、インフレ率の上昇ももたらさないか懸念されるところである。

 それでもFRBは緩和見直しに向けて早急に動くことはなさそうである。昨年8月にジャクソンホールで発表された新ドクトリンは、長年にわたって低すぎたインフレ期待値を少し高く、しかし高すぎない水準に訂正して安定させるために「一定期間、2%を上回ることを容認してインフレ率が長期的に2%となるよう目指していく」と打ち出した。

 このFRBの新ドクトリンは期待インフレ率の2%を若干上回る引き上げと雇用極大化を実現するのが狙いだ。そのために、いわゆるビハインド・ザ・カーブ(景気の過熱や物価の上昇に遅れる形で政策金利の引き上げを図る)も視野に入れている。ひと昔前の「予防的引き締め」に動くというボルカ―、グリーンスパン議長時代のFRBとは様変わりである。 

 たしかに2020年2月に比べて雇用者数は800万人弱も少ない。インフレ期待も2%を大きく上振れているわけではない。したがって、雇用重視の民主党政権下で、FRBが雇用の極大化のために超金融緩和を維持していくのは当然であろう。

 しかし、パウエル議長の「完全雇用に達するまで」という姿勢は使命感にあふれるとはいえ、同時にウォール街の資本家のみならず、大規模インフラ投資などをぶち上げるワシントンの政治家にとっても好ましい対応に映っていることだろう。

 これから主要国の中央銀行は英国、韓国、中国やカナダなどを先例にして金融正常化に向かっていく。米国が2023までゼロ金利を維持すると、金利差からドル安になってこよう。これはインフレリスクを高める。FRBはあとになってインフレ抑止のために引き締めを強化しなければならない可能性に直面する。

 バイデン政権による連邦政府支出の規模、政府の活動範囲の拡大は空前絶後である。昨年2月のコロナ感染以来、FRBは財務省発行の国債の56%、総額で4.5兆ドルを購入している。さらに2022年度(2021年10月~2022年9月)の連邦支出は約6兆ドル(660兆円)に達すると見られ、そのうち3割強にファイナンスの目途が立っていない。

 FRBのパウエル議長はパンデミックのさなかで危機管理の際立った才能を見せた。しかし、いまや、ワクチンの普及でその必要もなくなりつつある。むしろ、FRBは硬直的な政策の枠組みを変えていく必要がある。

 低金利で住宅ブームが起きている中で、住宅ローン担保証券の買い入れは即座に中止すべきであろう。そののちに早急に国債の買い入れ停止に進むべきだ。さらに財政支出の拡大は増税によって賄われるべきであり、FRBによりファイナンスされた財政支出の拡大は許されるべきではない。また、FRBは、新ドクトリンによってかけられた呪縛から逃れて、経済情勢に対する謙虚な判断に基づき行動すべきではないか。
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