本日(1月28日)早朝に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)声明は、3月も含め今後も利上げを継続する意思を改めて示しただけでなく、市場の安定感も増す結果につながった。
米連邦準備理事会(FRB)は日本時間28日午前4時、FOMCでフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.25~0.50%に据え置くと発表。決定は全会一致だった。これを受けて米国株は売りが先行。ダウ工業株(終値)は222.77ドル安の1万5944.46ドルと1万6千ドル割れ。米2年債利回りもFOMC声明公表後に0.89%ちょうど近辺から0.83%ちょうど近辺へと低下。上昇基調で推移していた米債利回りも上げ幅を縮める動きとなった。
これに対し、為替市場と原油先物市場は比較的落ち着いた動き。ドル円は119円ちょうどから118円台半ばに下落したが、その後は118円台半ばを小幅上回る水準で下げ止まり。原油先物価格(WTI)は1バレル32ドルちょうどを挟んでの小動きだった。
東京市場に入り、日本株は米国株の下げを受けて下落でのスタート。日経平均株価は取引序盤に1万7000円を割り込み、ドル円も118円台半ば近辺に反落した。しかし、その後、日本株は下げ幅を縮める動きとなり、前場終盤には前日終値水準を回復。ドル円も日本株と連れ高となる形で118円台後半に反発した。
市場の反応だけを見れば、FOMC声明は市場の不安心理を軽減させ、いわゆるリスクオフの動きを後退させた、といえるが、声明文の内容は、市場の先行き懸念を強めかねないものだった。声明の景気の現状判断では、米経済成長が「緩やか」から「昨年終盤に鈍化」に下方修正。在庫投資の減速も追加されるなど、米景気の減速を認める形となった。
インフレについては、市場ベースのインフレ期待が「さらに低下」したとし、インフレ期待の低下を改めて指摘。年始からの世界的な株安や原油安といった金融市場の動揺については、前回声明での「経済活動と労働市場におけるリスクと見通しは概ね均衡している」との判断を取り下げ、「経済・金融動向を注視し、その動向が労働市場、インフレ、リスクバランス、それぞれの見通しに対する影響を評価する」に変更。市場の動揺がFOMCの意思決定に影響を及ぼす可能性を示した。
このように、声明では市場の不安を刺激する内容が多く含まれたが、一方で利上げ継続の判断に大きな影響を及ぼす項目については上方修正もしくは現状維持となった。労働市場については「さらに改善している」とし、労働資源の不稼働部分が「さらにいくぶん縮小した」と指摘。インフレ期待は低下したと指摘した上で、インフレはエネルギー価格の低下を主因に低い状態が続くとしたものの、エネルギー価格と輸入価格の一時的な下落効果が減退し、労働市場が一段と強まるにつれ中期的には2%に戻るとの判断も据え置いた。
FOMCとしては、次回(3月)会合での利上げ継続の有無のどちらも選択できる状態を保つべく、利上げ継続の有無については、今後発表される経済指標の結果次第であるとの姿勢を改めて示したつもりなのだろう。ただ、市場が3月FOMCでの追加利上げを疑問視する中、労働市場のさらなる改善や中期的にはインフレが2%に戻るとの見方を維持したことは、市場が想定する以上にFOMCが利上げ継続に前向きであると解釈すべきと思われる。
興味深いのはFOMC声明の発表後、米国株は下げたものの、東京市場での金融市場は落ち着いた動きを示している点である。本来、追加利上げの可能性が、市場が想定している以上に高いものであれば、米国景気(ひいては世界景気)の先行き懸念が強まり、いわゆるリスクオフの展開になっても不思議ではない。
あくまで推測の域を出ないが、市場は今回の声明を通じ、FOMCが労働市場の改善を前提に利上げは続くとの意思を明確に示したことを好感したのではなかろうか。これまでFOMCは今後の判断の自由度を確保するべく、様々な可能性を声明文に盛り込み、今回も同じ姿勢を保った。ただ、年始から市場がリスク回避姿勢を強め、インフレ期待の低下など利上げ休止の言い訳が増える中、それでもFOMCは利上げ継続の意思を示した。これにより市場はFOMCの今後の動きが読みやすくなり、米国景気(ひいては世界景気)の先行き懸念を後退させたと解釈することも可能だ。
なお市場関係者の中からは、セントルイス連銀のブラード総裁が1月15日の講演で、インフレ期待の低下を懸念する見方を示したことを指摘し、今回のFOMC声明でもインフレ期待の低下が指摘されたことから、3月FOMCでの利上げは見送られる可能性が高まったとの見方が示されている。しかし、仮にインフレ期待の低下を主因にFOMCが3月FOMCでの利上げ見送りに傾いているのであれば、足元の低インフレが一時的なものであり、インフレが中期的には2%に戻るとの判断を修正しなければ辻褄が合わない。今回のFOMC声明でインフレ期待の低下が指摘されたのは、3月FOMCでの判断の自由度を確保するためだけと考えた方が自然と思われる。
利上げ継続の意向を改めて示した1月FOMC |
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【経済着眼】日本の市場も落ち着いた反応
公開日:
(マーケット)
FRB本部=Reuters
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村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。 著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。 |
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