石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国で構成されるOPECプラスでは、4月2日(日)に自主的に日量100万バーレルを越える追加減産に踏み切ると発表して世界を驚かせた。
この減産発表で石油需給の引き締まり予想が強まって、指標となる北海ブレントはバレル当たり79ドル近辺から8%ほど急騰して同86ドル台となった。
自主的な減産は5月から実施して23年いっぱい続ける方針である。サウジアラビアは同国石油産出量の5%にあたる日量50万バーレルの自主的な減産に踏み切ると発表した。
イラクが21.1万バーレル、クウェートが12.8万バーレル、カザフスタンが7.8万バーレル、アルジェリアが4.8万バーレル、オマーンが4万バーレルの減産となり、サウジも含めた合計で日量約100万バーレルとなる。なお、ロシアはすでに50万バーレルの減産を実施しているが、これを23年末まで延長する。
OPECプラスの狙いは、何と言っても下落を続けてきた石油価格の反転上昇を目指したものだと言えよう。
シリコンバレー銀行の経営破綻やUBSによるクレディスイスの救済合併など、欧米諸国での銀行経営危機が深まった。これを反映して、商品相場などから資金が流出するリスク回避の動きが強まった。石油もその一環で、一時バレル当たり70ドルを割り込んだ。22年中はウクライナでの戦争もあって同100ドル近辺で推移していた。
石油トレーダーは今次減産とゼロコロナ政策を転換した中国の成長復帰から今年の夏には100ドルの高値を付けようと予測する向きもいる。年末の石油市況も90―95ドル程度(ゴールドマンザックス推計)に高止まりを続けるとの見方が増えてきた。
今回の減産決定にはOPECプラスの先行きの世界経済に対する悲観的な見方(特に先進国)が投影されているようだ。世界需要はFRB、ECBなどの金融引き締めの強化から先進国を中心に弱々しく、石油在庫も第1四半期から早々に積みあがっている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、今年下半期の石油供給は日量100~150万バレル程度、需要を上回って推移しそうである。そこに今回の日量100万バーレル減産が加わると、需給は均衡する姿となる。OPECプラスが今回の自主的な減産は、「需給の改善に動く予備的な手段」と指摘するのはこうした事情があるためである。
こうした純粋に経済的な要因以外にサウジアラビアと米国の冷え切った外交関係も減産措置に影響しているようだ。米国のバイデン大統領はサウジの実権を握るモハメッド皇太子(MbS)との緊張関係が解けていない。
両者は昨年7月に会談したが、カショギ殺人事件でMbSが直接関与したという見解を取り下げたわけではなく、両国の摩擦は収まっていない。バイデン大統領がウクライナの戦争で高騰した石油価格を抑制するために増産対応をしてほしいとの要望にも応えていない。
サウジアラビアはむしろイランとの和解の仲介に動いた中国を重視するようになっている。ちなみに米国は今回の自主的減産に対して「現時点で推奨される措置ではない」とコメントしている。米国は戦略的石油備蓄を取り崩してでも高騰を続けてきた石油価格の抑制に動いてきただけにインフレを助長するような石油価格の上昇をもたらしかねない石油減産に賛成しないのは明らかだ。
米国のグランホルム・エネルギー長官は、ロシアのウクライナ侵攻で急騰した石油価格を抑えるために「戦略的石油備蓄」を取り崩してきたが、元の水準に復するためには数年かかる、というコメントをした。米国としては戦略備蓄の買いが石油価格の下落を食い止める役割を果たすとも力説している。しかし、サウジアラビアがこの発言を歓迎する様子は見られない。
OPECプラスとしては市場シェアを非OPECのライバルに侵食される過去の悪い記憶は忘れてもよさそうだ。10年前と違って米国のシェールオイルもかつてのように急拡大はしないので、減産拡大の部分をライバルが供給してくる恐れは少ない。
サウジアラビアはロシアと共同して2016年以来、石油問題に携わってきた。これも米国との緊張を生む一つの材料だ。ロシアが西側諸国の制裁強化から石油価格上限を画されて減産対応をしているのも周知の事実である。
今回の自主的減産の影響を最も懸念されるのは高騰を続けるインフレへの悪影響だ。各国の中央銀行にとって石油価格の上昇はインフレをあおり、したがって金利水準を長くかつ高水準に維持しなくてはいけなくなる可能性があるからだ。