2021年も終わり、振り返ってみると、パンデミックの世界的な蔓延にもかかわらず、世界の株価は3年連続での二桁台の大幅上昇となった。FTSE全世界指数(先進国、新興国、準新興国の株価指数の平均値)をみると、2019年が+24%、2020年が+14%、2021年が+17%の大幅上昇となった。
昨年を振り返ってみると、世界経済はワクチン接種によって新型コロナ感染がいったんピークアウトしたため、都市封鎖(ロックダウン)などの外出禁止措置が多くの国で解除されたうえ、超景気刺激的な財政金融政策の効果も大きく好影響をもたらした。こうした中で、2020年のパンデミック拡大の反動で消費、投資の世界的なペントアップ需要が大きく出た。これらの相乗効果で先進国を中心に世界経済は予想外に強い景気回復となった。
ただ最近における主要な中央銀行による緊急緩和措置はFRBによる量的緩和の解除や利上げ開始時期の繰り上げなどから次第に金融正常化のモードに切り替わって来つつある。一方でオミクロン株の感染拡大の影響で米国やフランス、英国など欧州諸国を中心に再び新規感染者が急上昇している。再び、外出制限が実施されて世界経済へ悪影響が及ぶことも懸念され出している。
さらに注目すべきは、コロナ対策としての大幅な支出を背景に英米で財政赤字が1945年の第二次大戦後の最高水準を上回っていることである。当然のことながら政府の債務残高も急増しており、各国中央銀行が国債を大量に買い付けてファイナンスしている。この構図は今年も大きく変わらないであろう。中央銀行のマネタイゼーションが野放図になりがちな財政収支を支えていく姿である。
さらに石炭・石油・天然ガスなどエネルギー価格が一斉に高騰している。多くの製造業がサプライチェーンのボトルネックに苦しむ一方で、労働需給が世界的に逼迫してきた。物価上昇を「一時的」としたFRBなどの楽観論は修正を余儀なくされた。一部の国では物価・賃金のスパイラル的な上昇も懸念され始めている。
さて、このような世界経済の展開の下で今後の株価はどのような推移をたどるのであろうか。これまで株価上昇を支えてきたのは上記のように世界経済の回復、低金利の定着、財政面からの刺激などがあげられる。そうした環境の下で株価は企業収益の順関数と言われるごとく、企業収益が空前の増益となったことがブルマーケット(上昇相場)を支えてきた。米国の2021年の企業収益は43%の増益、英国も75%の増益であった。
企業収益も高水準であったとはいえ、株価も急騰したため、株価収益率(PER)は過大評価となっている。例えば、現在の米国株式の株価収益率は、株価大暴落の直前である1929年、第一次石油危機前の1973年、リーマンショック前の2007年などを上回っている。1929年、1973年、2007年のピークの後にはいずれも株価暴落が続いた。
米国のS&P500 は昨年一年間で+27%の上昇となった。とくに石油価格の急騰を背景にエネルギー産業が+50%、不動産ブームに伴って不動産業も+40%の上昇となった。高騰を続けてきたテクノロジー部門も昨年の上昇率は+33%と上昇速度は鈍ってきたとはいえ、依然として株高を支えている。とくにアップルとマイクロソフトという時価総額が世界一位と世界二位(各々2.9兆ドル、2.5兆ドル)は各々、+51%、+34%の大幅上昇となった。
しかし、インフレ高進、中央銀行の刺激効果の低下、オミクロン株の蔓延という世界の経済社会の動きを考慮した場合、株価が4年連続で上昇するとの見方はぐらつきだした。とくにGAFAなどのテック株はPERが数百倍といった例もあり、どうしても過熱感がぬぐえない
年明け後、市場関係者に意識されているのはインフレ抑制のため、まず英国が利上げ、そのあとFRBも1月11日のパウエル議長議会証言で示されたとおり、金融引き締めに舵を大きく切るのではないか、ということだ。12月の米国消費者物価は前年比7.0%と39年ぶりの大幅上昇となった。バイデン大統領にとっても11月に中間選挙を控えてインフレ抑制が最大の政治課題となっている。
従って、ゴールドマンサックス社などの見通しによれば、FRBは今年の利上げ回数を3回から4回に引き上げるとみられる。
またオミクロン株の毒性はデルタ株より小さいとはいえ、米国で1日の新規感染者が100万人を超える勢いであるというのはただごとではない。これも株価下押し要因として働くはずだ、との見方もある。
従って当面はいくつもの株価調整要因をかかえていると言える。ただ市場関係者の株価見通しは引き続き「慎重ながらも楽観的(cautiously optimistic)」といったところが多数説である。インフレ高進、パンデミック拡大、株価の過大評価(高PER)などの売り材料を抱えているのになぜであろうか。
米国を例にとると、ひとつはインフレ高進といっても1970年代のようにインフレ心理が蔓延しているわけではないのでいずれ収束すると楽観的にみていることだ。
さらにFRBの利上げと言っても1970年代にボルカー議長が政策金利を22%まで引き上げてインフレ心理の撲滅を図ったような急激な引き締めはなく、いざとなればグリーンスパン議長のように「市場に優しい(market friendly)」政策を取ってもらえるという安心感もある。欧州でもECBのラガルド総裁が「利上げをできるような環境にはない」と市場を安堵させる判断を示している。
また市場ではオミクロン株についても感染力は高いが、重症化リスクは少なく、ロックダウン(都市封鎖)のような経済活動を阻害する措置を取ることはなかろう、と見ているようだ。
GAFAを中心とした株価の過大評価についても、テック株を中心に目先に10%程度の相場調整はあるにせよ、好業績を背景として急落はなかろう、とみているようだ。いずれにせよ、過去3年のようなテック株を主体とする株価の大幅上昇は見通しがたいとしている。