欧州中央銀行(ECB)では12月3日の理事会で追加緩和を決定した。主要な内容は、①毎月600億ユーロ規模の資産買入れプログラムを6カ月延長して17年3月まで延長する、②余剰資金をECBに預け入れる金利を‐0.2%から‐0.3%に引き下げる、⑧買い入れ対象に地方債を追加する、などである。
市場ではECBのドラギ総裁が「我々がやらなくてはいけないことは全てやる」と宣言していたので、買い入れ規模を800億ユーロ程度まで増額する、マイナス金利を‐0.4%までマイナス幅を拡大する、といった予想が一般的であった。
従って、市場の反応を見ると、株式・債券市場が全面安となった。3日の株式市場ではドイツ株価指数(DAX)などが3.6%安となり、ドイツ国債10年物利回りは0.666%(+0.197%)まで上昇(債券価格は低下)、海を越えたニューヨークでもNYダウが252ドル安、米国10年債が2.314%(+0.134%)と全面安展開となった。一方で、一段の緩和を予期してパリティー(対米ドルで1.0まで低下)まで通貨安が進むとみられたユーロは逆に対ドルで1.09、対円でも134円と全面高となった。
ドラギ総裁が追加緩和が必要と憂慮していたのは、欧州各国の景気が捗々しい回復をせずに、インフレ率が目標とする「2%近辺」を大きく下回り(15年中の見通しは0.1%)、デフレ懸念が払拭されない状況に陥りかねないと見ていたためだ。ドイツ、北欧諸国などの反対に遭い、市場を唸らせるような緩和策は取れなかったとみられる。
しかし、欧州中央銀行が出来ることには限界があるのも事実だ。既に長期金利はギリシャ金融危機が小康を得た今年央以降、欧州各国で大幅に低下しており、これ以上の下げ余地は少ない。設備投資が盛り上がらないのは、欧州独特の政府の市場介入が改まらないこと(ルノーに対するフランス政府の介入が好例)や硬直的な欧州の労働市場、高い社会保障コストなどに対する構造改革が進まないためである。いわば金融緩和で時間を買っている間に政府が決断すべきであった構造改革を避けてきたツケがきているためだ。
米国では12月16日のFOMCで利上げが決定されそうである。そうなれば、今回のECBの決定で見送られたドル高ユーロ安がもたらされて、内需の低迷を輸出で補いたい欧州諸国にとっては追い風となる。しかし、構造改革という苦い薬を避けてユーロ安と低金利にだけ依存していれば、ドイツの主張するように強い欧州は蘇らない公算が強い。