7月30日に発表されたユーロ圏27か国の第二四半期における実質GDP成長率は市場の事前予想(+1.5%)を大きく上回る前期比+2.0%、前年比で+13.7%、前期比年率換算で+8.3%となった。
また昨年春以降、新型コロナ感染が深まって以来、この第二四半期で初めて米国(前期比+1.6%)ならびに中国(同+1.3%)の成長率を上回った。ちなみに第一四半期は-0.3%とマイナス成長
このようにユーロ圏の成長率が高まった背景としては、企業と消費者のコンフィデンスがロックダウン解除で大幅に改善したこと、ワクチン接種の拡大などが挙げられる。すでにユーロ圏の小売売上高はパンデミック前の水準を越えている。
国別にみると、南欧のイタリア、スペイン、ポルトガルでは各々前期比2.7%、2.8%、4.9%と高い成長を示した。いずれもパンデミックの影響を大きく受けて経済活動が落ち込んできた反動増といった側面が大きい。ドイツは自動車産業が半導体の供給制約に直面して生産水準が低下したことから前期+1.5%増と事前予想(同+2.0%)を大きく下回った。
7月のユーロ圏消費者物価は+2.2%と6月の+1.9%から加速しており、大方のエコノミスト予想を上回るものであった。その理由は、製造業において供給面のボトルネック発生(半導体、非鉄、木材ほか)が起きて製品価格の上昇をもたらしたことが主因である。
欧州中央銀行(ECB)のインフレ目標値では食料ならびにエネルギーといった浮動性の高い品目を除いたコア消費者物価指数を採用している。ただこの水準が2%に近い水準から2%に変更された。このコアベースでは前年比+0.7%と前月(+0.9%)に続き引き続き落ち着いているため、ECBが量的緩和、マイナス金利の解除に直ちに動くことはなさそうだ、と大方の市場関係者は予想している。
ただ、すでに発表されたドイツの消費者物価指数は+3.1%と2008年のグローバル金融危機以来13年ぶりの高水準となった。ドイツは製造業のウエィトが高く、半導体ショック、ウッドショックなどの供給制約を受けた企業の投入価格上昇が生じている。
こうした生産者価格の上昇が消費者物価にも今後とも波及し、さらには経済界では強力な労働組合による賃上げ要求など物価・賃金のスパイラル的上昇を恐れている。
ECBきってのタカ派であるドイツ連邦準備銀行(ブンデスバンク)のワイドマン総裁は「ドイツのインフレ率は年末に向かって5%(約20年前のユーロ創設以来の最高水準)に向かう」と危機感を表明している。ハト派のラガルド総裁らとドイツとのECB内の軋轢は高まってこよう。
一方、ユーロ圏の雇用市場では、各国政府による個人に対する所得保障や自営業者等に対する休業補償金などの下支えによりパンデミックの影響をかなり相殺してきた。それでも労働需要は低迷を続けた。しかし、6月の失業率は7.7%と前月(8.0%)から大幅に改善、失業者数は6月中で42万人減少して1,250万人となった。
今後についてはデルタ型の感染拡大が懸念材料であるが、一方でワクチン接種率が大幅に上昇しているため、重症化リスクは低減しているとみられる。デルタ型の感染が蔓延するようなことになれば、各国政府も新しい規制措置を導入しよう。しかし、医療制度崩壊といった危機的状態になることがない限り、ロックダウンのような経済活動を大きく阻害する措置に踏み切ることはなさそうである。
中国は、昨年も主要国で唯一のプラス成長(+2.1%)を記録、今年も8%台の高成長となる見通しである。また米国のGDPは第二四半期でパンデミック前の水準を超えた。こうした中で、ユーロ圏のGDPは、パンデミック以前の水準をなお3%下回っている。
さらにドイツなどを襲った大規模水害のマイナスの影響もある。この第二四半期の高成長のみを見て、ユーロ圏経済が持続的な成長経路に復したと見るのは早計であろう。