15、16日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)で米国における9年ぶりの利上げが決定されそうだ。市場はイエレン議長らの議会証言、講演などから既に利上げを織り込み済みとみられ、大きな混乱は回避されよう。
FRB(連邦準備理事会)が利上げに踏み切るのは失業率が5%そこそこにまで低下している一方で、石油価格の下落でインフレ率が落ち着いているとはいえ、物価上昇圧力が着実に強まっているとみているためだ。
新興国における借入の急拡大、金利の大幅低下という危うい国際金融市場の状況も利上げが必要な要因であろう。新興国の景気スローダウンはたまたま偶然にこの時期に起きたわけではなく、米国の利上げにより、極めて安易に、信用リスクを軽視して新興国に流れていた資金が新興国から逃げ出しているためだ。
国際金融協会(IIF)によると、今年は1988年以来27年ぶりに新興国から資金が流出する。リーマンショック後、不振にあえぐ先進国を尻目に、新興国が世界経済を牽引してきたのは中国の高成長、資源ブームなどの裏に隠されてきた信用の急速な膨張があった。
中国の不動産投資、ブラジル、ロシア、南アフリカなどの資源開発投資、インドのインフラ投資などは高い利回りを稼ぎたい先進国マネーや国内の投機マネーに支えられて拡大を続けた。これらのマネーが米国利上げを契機に慎重化してきたわけだ。
石油価格がバーレル100ドルから今や30ドル台まで急速な下落をたどり、産油国の経済も窮迫化した。ナイジェリア、ベネズエラなどは言うに及ばず、富裕な湾岸産油国であるサウジアラビア、クエート、UAE(アラブ首長国連邦)―まで開発支出の削減では足りずに運用資産の取り崩しを余儀なくされている。
今後、注意を要するのは米国利上げに伴うドル高と石油、非鉄などの国際商品市況の下落というダブルパンチが新興国経済を襲うことだ。既にこの3年間で新興国通貨は30%ほど切り下がっている。商品市況の急落は新興国の外貨収入を減少させている。
ロシア、トルコ、ブラジル、ナイジェリアなどでは金利の低い米ドルで借り入れてルーブル、リラ等に転換して資源開発投資を行ってきた。一種のドルキャリートレード(ドル借り、為替ヘッジをせずに国内通貨に換えて投資、運用すること)だ。商品市況の急落に伴いドル建て収入が減少する一方でドル高に伴う返済負担の上昇に直面することになる。
今回の米国利上げは日米欧による量的緩和で行き過ぎた投機マネーの新興国流入が見直されるという金融正常化に資するものだ。ただ、新興国向け与信は信用サイクルの最終局面に向かっており、これまでの咎(とが)めが、銀行の不良資産という形で出てくるのは当然である。
いまや中国の四大国営銀行は世界の銀行総資産のトップを占めている。政府のバックアップがあるとはいえ、不動産投資や過剰設備の引当・償却負担がのしかかってこよう。アジア地域で急速に融資を伸ばしてきたマレーシア、日本の銀行も悪影響を免れない。
自己資本の厚さがあるとはいえ、グレンコア、アングロ・アメリカンなど鉱山会社の苦境に象徴されるように、資源関連を中心に貸し倒れの費用である、与信コストの上昇に警戒を要しよう。