ペルーの首都リマで開催されたIMF総会では新興国の成長減速が話題となった。IMFの世界経済見通しでは今年の世界の実質成長率は3.1%と6年ぶりの低成長となる。とくに新興国の今年の実質成長率はロシアが‐3.8%、ブラジルが-3.0%とマイナス成長になる。第二四半期に6.9%と6年ぶりの7%割れとなった中国もIMFの見通しでは通年で6.8%とさらにこれを下回る予想となっている。余談だが、日本の見通しは0.6%と米国(2.6%)、ユーロ圏(1.5%)を下回りイタリア(0.8%)にも及ばない。
今回の総会では、新興国へのマネーが流出している下で、IMFの金融安定化レポート(Financial Stability Report)も話題を集めた。同レポートでは、新興国の債務、とくに企業の債務が急増したことに警鐘を鳴らしている。2014年までの10年間で4兆ドルから18兆ドルと4倍以上に膨れ上がったと推計している。国別にみると、中国、トルコ、ブラジル、インド、メキシコなどで大きく増加している。
IMFが米国FRBに対して早ければ年内にも、とみられる利上げを慎重に行うように牽制しているのは、利上げによる新興国での債務問題の悪化を懸念しているためである。多くの新興国企業では歴史的な低水準にある米ドルを借り入れてこれを自国通貨に転換して投融資に充ててきた。FRBの利上げで金利が上がり、米ドルが自国通貨に対して切り上がると、債務返済負担が増大する。既に中国の景気減速から資源のスーパーサイクルが終わり多くの新興国で資源輸出が落ち込み、外貨稼得の能力が低下している。新興国企業の中でも石油・天然ガス開発などで多額の借入・投資に踏み切ってきたガスプロム、ペトロブラスなどのバランスシート悪化が懸念される。
IMFでは新興国向け与信はクレジットサイクル(融資の拡大→ピーク到達→減少→不良資産の累増)の最終局面にあると指摘して、貸し手の銀行、投資家に注意を呼び掛けている。経済学で言えば、先進国の量的緩和で大量のマネーが流入して自然利子率(設備投資などの実質収益率)が貨幣利子率(銀行の貸出金利)を上回る状況が続き、不動産、資源開発をはじめとして非効率な過剰投資を招き入れた結果であろう。アジア通貨危機の時に比べれば、新興国企業のバランスシート悪化に対する耐性は強まっているとはいえ、楽観はできないとも言えよう。