コロナ禍で世界経済が依然として景気の停滞に悩む中で、コロナ発生源であった中国経済がいちはやく立ち直りをみせている。IMF(国際通貨基金)の見通しでも2020年に主要国では唯一プラス成長(+1.9%)をたどり、来年は8.2%の高成長を達成する見通しである。
こうした中で中国の輸出は快進撃を続けている。中国の11月貿易黒字は、輸出の急増と輸入の伸び悩みを反映して754億ドル(10月は584億ドルの黒字)と月間としては史上最高の黒字となった。輸出は10月の前年比+11.4%をさらに上回る前年比+21.1%と一段と高い伸びとなった。
一方、輸入は同+4.5%と10月(同+4.7%)を若干下回り伸び悩んだ。2020年通年では輸出が史上最高の水準に達する見通しだ。1年半前の米中の激しい貿易戦争が演じられた頃には到底想像できない姿となったと言えよう。
貿易黒字は、大方の世界各国がロックダウン(都市閉鎖)を解除した6月以降、増加傾向をたどっている。パンデミックを反映してマスク、消毒剤、防御服などの感染防止関係と在宅勤務の増加に基づくパソコンなどIT関係の需要が大幅に伸びた。
アイフォーンの輸出も好調を続けた。スマホなどの輸出は前年を70億ドルほど上回った。もっとも、米欧を中心にコロナ感染の第三波が高まる中、中国が強みを発揮してきた一般消費財の回復の足取りは鈍い。
米国企業のサプライチェーンは中国を含むアジアに集中している。せっかく米国の消費者がパソコンなどの需要を増やしても、その恩恵を受けるのは海外で米国国内の生産増として恩恵を受けることが少なかったとも言える。
さらに最近でも米国での感染第三波で新規発注が生産を上回るような状況となっても、米国企業の国内生産は工場労働者の感染拡大や外出禁止によって伸びずに、むしろ製造業の雇用は減少しているありさまだ。
11月の輸出を仕向け地別にみると、金額ベースで第一位のASEANが前年比+10%、同第三位の米国が+46%と急増している。第二位の欧州は、コロナ禍が続く中での景気回復の遅れを反映して10月は-7%であったが、11月は+8.6%と多少持ち直した。
一方、輸入面では11月の米国からの輸入は+33%と著増した。しかし、農産物、エネルギー関係などは、トランプ政権下での貿易交渉で今年の初めに約束した公約には大幅未達となっている。10月の段階で達成率は55%に過ぎず、今年末までに目標額を達成するのはほぼ不可能である。なお、サービス輸出をみると、中国人の海外旅行、留学などの激減を通じて低調なまま推移している。
上記のような中国の対米貿易黒字の拡大は、中国通の新しいUSTR代表を据えたバイデン政権との通商交渉の緊迫化を予想させるに充分である。バイデン次期大統領は、トランプ政権が中国に課した3,800億ドルの輸入にかかる高率関税を直ちに廃止するつもりはない、と言明している。
バイデン氏はオバマ政権の副大統領時代に習近平副主席と同じナンバー2として交流を続けていた。バイデン大統領となった暁(あかつき)には対中姿勢が軟化するとの見通しもあった。しかし、いまや米国民の7割が対中嫌悪感を持っている時代に対中赤字が高水準を続けているとあっては、バイデン政権としても厳しい交渉を迫られよう。
また貿易問題だけでなく、バイデン氏の政治スタンスからみても新疆ウイグル、香港の民主派弾圧などの人権問題に対しても厳しく当たっていくとみられる。