石油、天然ガスなど、エネルギー価格が上昇を続けている。石油価格市況の指標となる北海ブレントがほぼ3年ぶりに80ドルの大台を越えた。北海ブレントの年初来の上昇率は約6割に及ぶ急騰ぶりだ。コロナ感染拡大から落ち込んでいた工業生産の操業度や自動車のガソリン需要が世界的に拡大していること背景だ。
天然ガスをみても、10月引き渡しの先物価格が8月央から約2倍の水準となっている。このようなエネルギー需要の増大でカーボン排出を相殺するための排出権取引価格も65ユーロを越えた。天然ガス価格の急騰は供給量が増えない中で中国と欧州諸国がスポット物の手当てで競合しているためだ。
中国では電力不足が深刻である。このため電力需要の増大にこたえるため、石炭価格が一年で約2倍となった。習近平政権では2060年までに排出ガスゼロを目指すカーボン排出制限を強めている。したがってクリーンエネルギーであるLNG(液化天然ガス)への需要が強まっている。
しかし、現実問題として石炭火力発電所も停電回避のためにフル操業だ。それでも中国では、電力需要に供給が追い付かず、突如として停電に追い込まれることが増えている。アップル、テスラーなどの米国企業や半導体、自動車などの日本、台湾企業なども含めて安定的な操業が難しくなっている。
これには2月の北京における冬季オリンピック開催を控えて、工場操業度、家庭用暖房の抑制を通じて大気の清浄化を図る狙いも込められている。
目を転じて米国の原油在庫水準は冬場需要期を控えて例年の水準をかなり下回っている。今後、各国が景気回復で産業、自動車需要が増えているためだ。今後、コロナ対策としての旅行制限措置も解除するとみられ、ガソリンを中心に石油製品についても一段の需給逼迫が予想される。
天然ガスの需給逼迫は欧州でも今後、冬場の暖房需要も加わって深刻になりそうだ。そうなると、石炭価格についても一段の上昇が予想される。なぜならば、ESGの機運が強まる中で金融機関も投資家も新規の炭鉱開発に二の足を踏んでいて石炭の供給能力が増えていないためだ。
ちなみに豪州の高品質な石炭価格は、12月渡しでトン当たり204ドルと2008年に付けた高値を13年ぶりに更新している。
世界各国が設定した炭素削減目標の達成のために、各国とも軒並み石炭消費量の削減を打ち出している。しかしながら、エネルギー専門家は、欧州の独仏英など主要国の今年の石炭消費量は、火力発電所の稼働率上昇などから2015年のパリ協定締結以来の最高水準となると見ている。
このようなエネルギー需要の増大で、北海ブレントは年末には90ドルの大台を越えるとみられているほか、LNGを含めて天然ガス価格も上昇を続けよう。問題は、コロナ感染対策としての拡張的な金融財政政策が今後は次第に正常化するため世界景気が減速しかねないことだ。景気拡大テンポが緩やかとなっても供給制約からエネルギーコストが高止まりする可能性は高い。
一方で各国企業によるエネルギーコストの転嫁は次第に難しくなりそうだ。このため、企業収益が圧迫される可能性が高い。仮に消費者にエネルギー価格の上昇が転嫁されていけば、各国の物価上昇率を高めて金融引き締めに動かざるを得ないことにもなりかねない。