石油価格の指標となる米国のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)がじわじわと強含み、70ドル/バーレルの大台を越えて推移している。
昨年10月のボトムに比べてほぼ二倍の水準まで高騰している。米国、欧州にお
ける経済の正常化が進んでいく期待が大きくなっているためだ。夏場のバカンスシーズンを控えてガソリン需要が増える、あるいは生産活動が拡大するの間違いない。
OPEC(石油輸出機構)とロシアなどの非OPECとの会合、いわゆるOPECプラスは7月1日の会合で日量50万バーレル程度の増産に踏み切りそうだ。
米国、欧州を中心にワクチン接種が急速に広まる中、世界経済は想定を上回る
拡大を続けている。昨年、世界の石油需要は1,000万バーレル近い大幅な減少
をたどり、OPECも史上空前の規模である日量970万バーレルの協調減産に踏
み切った。
しかし、現在では徐々に減産幅を縮小して日量400万バーレルほど減産幅を縮小している。もっとも需要の先行き拡大予想から先物デリバティブ市場の取引では年末までにバーレル当たり100ドルに達するとの見方すらある。
国際商品市況を見ると、すず、銅、アルミから木材にいたるまで一斉に急騰したものの、最近では急騰の反動から軟調を示す品目もある。しかし、石油価格については他の商品に見られないOPECプラスというカルテルの機能がワークして価格の下方シフトへの耐久性がある。
OPECプラスが価格維持のために増産幅を慎重に見積もり、とくにサウジアラビアがスイングプロデューサー(需給調節弁の役割)として日量100万バーレルの減産を続けてきた。
OPECプラスでは世界の石油需給が今後かなりタイト化するとの予測を持っている。OPEC事務局の見通しでは今年下半期の世界石油需要は日量6百万バーレルの増加と予測している。
OPECプラスの石油生産が絞り込まれているため、世界的な在庫水準は2015~2019年の平均在庫を下回りつづけるようだ。これによってOPECプラスでは昨春以来のコロナ感染の拡大で生じた、いわゆるパンデミックグラット(供給余剰)が解消するとみている。
世界経済をマクロ的にみると、過去数十年の歴史の中でもっとも高い成長をた
どりそうだ。経済協力開発機構(OECD)は5月末に発表した今年の成長率見通
しを5.8%と1973年以来の高成長になると推計している。
とくにワクチン接種の進む米国が6.9%(前回3月見通し 6.5%)、いちはやく経済が正常化した中国が8.5%(同7.8%)と高い成長となる見通しだ。本年末までには世界の鉱工業生産はパンデミック前の水準に戻るものとみられる。この結果、世界中の工場でエネルギー、原料品への需要が高まろう。
石油価格の高騰は世界的にインフレ率の上昇をもたらしている。ユーロ圏の5
月CPIは前年比2.0%と2018年以来の水準となった。しかし、これはエネルギー
価格が13.1%も急騰した結果である。
米国においても4月のCPIは前期比0.6%、前年比3.6%、5月も前年比5.0%となった。世界最大の原料輸入国である中国はパンデミックからいちはやく立ち上がり、政府の指導で原材料価格のコスト急増の吸収に努めている。
世界の中央銀行家たちは現在みられているインフレ圧力が年後半には緩和方向に向かう、と声を揃える。製品価格、原材料価格の上昇に対応して生産水準を
引き上げるとみているからだ。
OPECプラスとしても、石油価格の維持は図りたい一方で、第一次、第二次石油ショックのような石油価格の急騰は大きな需要後退を招く。ただでさえ脱炭素社会の実現で化石燃料への依存を減らしたい各国にとっては風力発電や電気自動車へのシフトを助けることになるのでOPECプラスとしても避けたいところである。