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世界の金融が依存する米国債市場が変調

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【経済着眼】買い手不在で流動性が低下 FRBが市場改善策を準備

公開日: 2022/12/05 (マーケット)

Reuters Reuters

俵 一郎 (国際金融専門家)

 米国の国債市場は、残高が26兆ドル(3,640兆円)という世界最大の債券市場である。

 米国債市場は、米国政府が資金調達する場であると同時に、世界の中央銀行や機関投資家にとっても、最高の信用力を誇り、いつでも購入ないし換金できるという流動性に富むメインの運用の場でもある。

 このような米国債市場に脆弱性が生じれば、国内外の年金基金から外国政府に至るまで大きな懸念を抱くようになる。なぜなら上記のように安全を求める彼らの運用の主な舞台であり、かつその利回りは借り入れる際のベンチマークともなるからだ。国債の価格付けに不調が起きればそれはグローバルに悪い影響が及ぶことになる。

 流動性の不足・欠如はたんに国債市場の問題ではなく、マーケットを円滑に回すために課せられた米国債を巡る諸規制の欠陥をも映し出すものだ。もし米国債市場に必要な流動性が供給されなければ、それはたんに国債市場の問題にとどまらず、株式、社債さらには各国通貨など金融市場全体の安定にかかわる問題となる。

 流動性不足とは、売りと買いの建値を出して市場の売買に応じている銀行や証券会社(マーケットメーカーと言う)が買値と売値のスプレッドを広げて取引成立に消極的となることだ。あるいは、取引に応じないような事態と言い換えることもできる。市場の深さ(depth)を図る板情報(買い希望数、売り希望数と注文価格の一覧)で買いないし売りのオーダーが著しく偏っていることでも分かる。

 いまのところ、米国債市場で売買が全く成立しないといった事態にまでは立ち至っていない。しかし、例えば、従来5億ドルをワンショットで売れていたのが、買い手が慎重で1億ドル程度に小ロットにくだかないと、売りさばけないといった問題が出ている。

 現在、米国の国債市場では、板情報をみると、売りに対して買い応じる先が極めて少なく、マーケットメーカーの売買レートのスプレッドも安定していない。コロナ感染の蔓延の際にも、世界経済が崩壊寸前となるのではないかとの恐れから価格の暴落、流動性の低下に悩まされた。

 とくに2020年3月には流動性は危機的な低水準を記録した。現在はその2020年3月をも上回る流動性不足が起きているとの指摘が多い。このような脆弱な市場状況であると、何かのきっかけから金融市場でアクシデントが起きる可能性が高まってくると懸念されている。

 今回の米国債の流動性低下は、トラス政権による無定見、無節操な政策発表で英国債市場が崩壊寸前までいった出来事が起きる前から始まっていた。ただ英国の危機が米国の流動性低下を加速させたとはいえそうだ。

 この流動性低下は市場のボラティリティを高めて大きく値が動くことにつながっている。ボラティリティの増大は一段の流動性低下につながるという悪循環をもたらす。現在の流動性問題は価格変動が激しいことに加えて買い手が不在である、もしくは買い手がすべての売りを吸収する能力に欠けていることに帰着する。

 買い手不足が起こっている原因は大きく分けて二つある。一つはFRBによる急速な利上げだ。FRBでは4会合連続で0.75%の利上げを敢行、FRBの109年の歴史の中でも最速の部類に属する利上げであった。

 極端な例であるが、104円で買った国債が一時間後には102円に下がる(金利は上昇)ような荒い値動きであれば2円(約2%)も損失を出すことになる。いまのところ、取引量が減っているという兆しはないものの、先行きの不透明性が高まる中で国債取引が次第に高くつき、厳しいものになっていくのは避けられない。

 二つめは、国債市場における高速取引ディーラーやヘッジファンドといったシャドーバンクの台頭という構造的変化も流動性低下につながっているとみられる。国債取引を行う大手銀行、証券会社に対する規制が2008~2009年におけるグローバル金融危機の際に強化された。この措置が彼らにとってコスト高になることにつながった。

 彼らはマーケットメーカーとして十分な流動性を供給する(安定的な売買スプレッドを維持して売りにも買いにも対応する)責務も負っている。厳しい規制に服している銀行、証券会社などを横目に、規制の緩い高速取引ディーラーやヘッジファンドの売買シェアが急速に高まってきた。

 彼らが流動性供給に難を示していることが流動性低下につながっている。またヘッジファンド等ではレバレッジをかけて膨大なボリュームの売買を繰り返す。2020年3月に市場の混乱を助長したのは、ヘッジファンドなどがベーシス取引(国債の現物価格と先物価格の価格差を利用して利益を得る手法)を通じて膨大なボリュームを市場で取引したことに原因がある。

 いわゆるシャドーバンクは規制を受ける銀行、証券と違って、売買ポジションなどの情報が曖昧模糊としている。FRBの金融安定化報告書で数カ月遅れでしか彼らの動きが分からないが、その中でFRBは「ヘッジファンドのレバレッジは過去の平均水準を上回って推移している」「もし短期借り入れで資金調達されていれば(短期金利の急激な上昇によって)ショックはかなり大きなものとなろう」と警告している。

 もっともいまのところ、高いボラティリティと流動性の欠乏の中でレバレッジのかかったポジションの目立ったポジション調整売りは出てはいない。

 国債市場の中でもっとも大きな買い手であったFRBと日本銀行が市場から引き上げつつあることも買い手不在の一因となっているとみられる。FRBは量的引き締め(QT)を進めるためであり、日銀は財務省の代理人として外為市場でのドル売り介入の原資を調達するために米国債を売却していると噂されている。

 もちろん、当局者は市場関係者を安心させようと「市場はよく機能している。取引量は大きく、トレーダーは取引実行に困難を感じていない。」(ジャネット・イエレン財務長官)、「さらにショックと混乱を緩和する国債市場の改革も動き出している」(同)との発言を繰り返している。

 FRBは、前回の2020年3月の危機などの場面で市場安定化のために市場に買いオペで流動性を供給するなどの市場介入を行った。

 市場ではFRBは市場安定化のために量的引き締め(QT)にあたって、FRBのバランスシートから切り離す予定の銘柄の売却を停止、むしろ銘柄によっては債券買い入れに踏み切って安定化を期すものと期待が生まれている。財務省が最も流動性に欠く銘柄を買い戻すことによって市場の安定を図ることも検討されている。

 証券取引委員会(SEC)からは市場機能を改善するための二つの提案が出されている。実現すれば2010年のドット=フランク法以来となる大幅な改革案となる。改革の趣旨はシャドーバンクも大手銀行等と同様の規制に服するのが骨子となる。

 第一には月間250億ドル以上の取引量を越えるトレーダーは、銀行や証券会社と同様に自己資本比率の引き上げ、売買ポジション等の公表、など透明性を増すことを求められる。

 第二には中央清算システムの利用を増やす、つまり第三者を間に入らせてカウンターパーティリスクを軽減することが狙いだ。G20に直属するFSB(国際的な監督者の集まり)でも自己資本の充実強化と中央清算システムの利用促進を掲げている。

 しかし、例えばヘッジファンドは、身軽な小規模な資本のまま、借り入れを増やして勝負に出て大儲けするのが醍醐味である。資本充実を求められると、この小回りが利くビジネスモデルを根本的に変化させなくてはならない。ヘッジファンド側の抵抗は大きいであろう。

 市場関係者の間からは理念として分からないではないが、ヘッジファンド等がこのような規制を嫌がってむしろ取引から撤退、かえって流動性が低下する方向に作用しないか、と懸念する向きもいる。またFRBが、イングランド銀行が英国債市場で繰り広げた市場安定化のために市場介入を広げていけば、外国政府などが自由な取引で知られた米国債市場を忌避する動きにもつながりかねない。
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