インド準備銀行(中央銀行)は6月8日、政策金利を0.5%引き上げて4.9%にすると発表した。5月の臨時政策会合に続き、2会合連続の利上げで、引き上げ幅は0.9%に達した。
インド準備銀行は消費者物価(CPI)上昇率の中期目標を2-6%に定めているが、このレンジを大きく越える物価高騰が続いた。CPIは、今年1月以降、6%の上限を上回って推移し、4月には前年比7.79%に達した。
コロナ感染の一巡で世界経済が正常化する過程でサプライチェーンの混乱やエネルギー価格の上昇が続いた。さらにその後、ウクライナでの戦争も加わってエネルギー輸入依存度の高いインドのインフレが加速したわけである。インド準備銀行のダス総裁は8日の記者会見で2022年度のCPI見通しを5.7%から一挙に6.7%に引き上げた。
インドは2020年の春先から新型コロナウィルスの感染拡大に襲われて、全土で厳格なロックダウンが実施された。このため、経済活動は急速に鈍化、20年4~6月の実質GDP(前年比)は-24.4%と記録的なマイナス成長に襲われた。このため、インド準備銀行は20年3月ならびに5月と利下げに踏切って、その後、約二年に亘って政策金利を4%の低水準に据え置いてきた。
インドは「世界最速の経済」と称賛されてきた。IMFの見通しでも下表のとおり中国を上回る高い経済成長を続けるとみられてきた。
世界主要国の実質成長率見通し
(IMF世界経済見通し、前年比%、2022年4月発表)
21年 22年 23年
インド 8.9 8.2 6.9
中国 8.1 4.4 5.1
米国 5.7 3.7 2.3
ユーロ圏 5.3 2.8 2.3
日本 1.6 2.4 2.3
これはワクチン接種が進み、コロナ感染を克服して経済活動が拡大していく姿を描いていたからである。しかし、四半期ごとに実質成長率をみていくと、21年4~6月(前年比)が+20.1%、7~9月が8.4%、10~12月が+5.4%、22年1~3月が+4.1%と三四半期連続で伸び率が鈍化している。
22年中の実質成長率についても多くのエコノミストが、8%台から7%台へと下方修正した(インド準備銀行も7.2%と予想)。ウクライナでの戦争やFRBの利上げスタンス如何によってはさらに下方リスクが強まってこよう。
22年1~3月のGDPを需要項目別にみると、GDP全体の6割を占める民間消費(前年比)が+1.0%と前期(+4.1%)から大きく伸びが鈍化している。これは今年1~2月にかけて新型コロナ感染拡大の第3波に見舞われて小売売上などが鈍化したうえ、昨秋以降続いている半導体不足を反映した乗用車販売が低迷した影響も響いた。
成長のリード役を果たしてきた輸出は、機械類やコロナワクチンなどの医薬品等を中心に引き続き概ね好調であった。産業別にみると、製造業が自動車生産の減少等から前年比-0.2%のマイナスとなったが、農業(+4.1%)が下支えとなった。一方、ホテル、運輸、卸小売り業などのサービス部門も上記の感染第3波の影響を受けて伸びが鈍化した。
今後の景気については、インフレリスクの高まりを背景に消費者のコンフィデンス、企業マインドの悪化から下振れするものとみられる。さらにFRBの利上げ等によって通貨ルピーは1ドル=70ルピー台後半の最安値圏に沈んでおり、輸入インフレを煽る結果となりそうだ。
また最近における熱波の影響もあってインド政府は自国への供給を最優先する姿勢を示して小麦輸出の禁止を打ち出したことも大きく報じられた。
とくにエネルギー輸入代金は13億人の人口を抱えて多額の支払いを余儀なくされている。ちなみにインドは輸入金額でみて石油が世界第三位、石炭が同3位、天然ガスが同6位のエネルギー輸入大国である。石油を例に取れば、2020年で中国の1,763億ドル、米国の816億ドルに次ぐ644億ドルと日本の1.5倍の水準となっている。
このため、インド政府は西側諸国がロシア産原油の禁輸措置を打ち出している中で、インドは逆に安値販売されているロシア産原油の輸入を大幅に増やしていると伝えられる。しかし、120ドルを越える石油価格がウクライナでの戦争長期化などの影響で一段と上昇すれば、輸入価額の上昇を通じてインフレ圧力がさらに高まってくる。
ただ、インドは13億人の人口を抱えて将来的には巨大な消費市場となることは確実であり、さらにIT、通信、医薬品開発などの先端分野でも高い技術力を誇っているだけに中長期的には「世界最速の経済」であることに変わりはない。しかし、当面はインフレ抑制に成功するかどうかが健全な経済運営の鍵を握ることになろう。