2021年の世界経済をみると、前年に世界中を席巻したコロナ禍から予想外の力強い回復を遂げたことが最大の特徴と言えよう。
パリに本部を置く先進国クラブとも言われる経済協力開発機構(OECD)による最新経済見通しによると、世界経済の実質成長率は、コロナが発生して蔓延していった2020年は、当初見通しである-4.2%から-3.4%にマイナス成長の幅が縮小した。パンデミックの悪影響が各国の思い切った財政金融政策などによって予想外に少なくて済んだことなどが背景にある。
これに対して2021年実質成長率見通しは+4.2%となり、世界全体としてはコロナ禍前の2019年末を上回ったことになる。しかし、国別あるいは産業部門別にみると、むしろ格差が拡大するという不均衡を伴ったことは無視しえない重大な論点と言えよう。
1年前のOECD経済見通しと比べてもっとも大きな変化は、高所得国の改善ぶりが顕著なことだ。2021年の実質成長率は米国が+5.6%、ユーロ圏が+5.2%となっている。ちなみに今年は米国が+3.2%、ユーロ圏が+3.6%の見通しとなっている。
このようにOECD加盟国の欧米が好調であるのに対して、途上国など相対的に貧しい国のパーフォーマンスはさえないものとなっている。これはワクチン接種の頻度、財政金融面からの刺激策を採る余裕度などが途上国では先進国に比べて劣っているためである。
昨年12月時点でのワクチン接種率(100人当たりの回数)をみると、中国の183回(一人あたり1.83回を意味する)、英国の176回、米国の140回に対して途上国ではインドの93回、南アの44回、ナイジェリアで5回と両者の間で大きな差がある。もちろん、ワクチンを購入する財政的な余裕の差である。
先進国は、財政資金の自由度が高いだけでなく、その支出内容も多岐にわたっていた。ドイツやフランスのように雇用維持に多くの財政資金を注入した先では労働参加率はパンデミック前にほぼ戻っている。
しかし、このことは欧州で必要とされる労働市場の流動性拡大を阻み、成長停滞部門の労働力が温存される結果を招いた、との批判もある。米国のようにピーク時には失業手当に週600ドルの割増手当を支給するなど、失業対策を重視した国では失業者は減少した。
それでも、米国の労働参加率をみると、いったん失業して職を離れたまま労働市場への復帰を見送っている人も多いためパンデミック前に比べて低いままになっている。
部門別の回復度合いをみても格差が大きく、製造業の回復が早い一方で対面サービス(飲食店、ホテル等)の回復度は弱々しい。この格差は雇用面にも影響を及ぼしたほか、回復の速かった自動車産業を中心に部品供給などサプライチェーンのボトルネックを生んでしまった。
OECDによれば、自動車部門だけを取ってみても、半導体など部品の供給不足によってドイツが1.5%、日本、メキシコで0.5%のGDP下方修正を余儀なくされた模様だ。
生産増加や営業再開に対応すべく、労働需要が増大して労働市場に対する強いプレッシャーに結びついた。これが一因となって予想もしていなかったインフレ圧力の増大につながった。米国では昨年11月の消費者物価は前年比+6.8%と39年振りの高水準となった。
この度、再任されたFRBのパウエル議長は「物価の上昇は”一時的”」と言い続けたが、さすがに昨年11月末には「一時的」という表現の撤回を迫られた。グローバルなインフレ加速を背景に先進国の金融政策は、日本除けば予想よりも早いペースで引き締め方向に動くことになりそうだ。
OECDも先進国中央銀行に対して物価抑制を優先した慎重な金融政策の運営を求めている。ちなみにOECDの見通しによれば、主要国のインフレ率は2023年に至っても米国が2.5%、英国が2.4%と中央銀行のインフレ目標値(2%)を上回って推移する厳しい情勢だ。一方で、景気回復の足取りが重いユーロ圏は2023年に至って2%を少し割り込むものと推計している。
オミクロン株の流行拡大によって、今年もコロナとの戦いが続く。昨年は確かに各国とも概ね予想を上回る景気拡大を遂げたとはいえ、今年もインフレ抑制、ワクチン供給の拡大など、各国政策当局がなすべき課題は山積している。