6月の米国消費者物価(CPI)は前年比+5.4%とエコノミストの大勢予想(+4.9%)を上回り5月に続き+5%の大台を越えた。前月比でも+0.9%と2008年6月以来13年ぶりの大幅な上昇となった。
FRBは引き続き前年同期がコロナ禍によるロックダウンで物価が下落していた反動(ベース効果と呼ぶ)や半導体不足による自動車価格の上昇などの「一時的な」上昇であり、今後は次第に物価上昇率が低減していくという見方を変えていない。
FRBでは、21年中の物価上昇率(個人消費支出デフレーターのうち食料・エネルギーを除いたコア指数)は3%、来年22年は2.1%と予測している。
ただ、エコノミストや共和党議員を中心に、超緩和的な金融政策や拡張的な財政政策が物価上昇の背景にあるのではないか、とインフレ再燃につながらないか、と物価上昇の中味について精査を加えているところだ。
いまのところ、大幅な物価上昇をみているのは旅行関係(ガソリン、レンタカー、航空運賃、ホテル)が中心となっていて、ワクチンの接種が広まって経済が正常化したことが影響しているようだ。その限りではFRBの主張のように物価高騰は一過性であるという側面もある。
とくに中古車価格は前月(5月)比+10.5%も上昇しており、前年比では+45%とCPI上昇率の1/3を占める。FRBでは半導体不足で新車の供給が細って、経済活動の再開で新車を買いたい人が中古車にシフトしている一時的な現象であり、半導体不足というボトルネックが解消されば高騰も収まるとみているようだ。
このほか、ガソリン価格も全米平均で高値の目安となるガロン当たり3ドルを越えた。需要の増加にバーレル当たり70ドルを越える国際的な原油価格の上昇もあって、ほぼ7年ぶりの高値を付けて前年比では+40%を記録した。
ロックダウンの解除によって、旅行関係の価格も大幅に上昇している。航空運賃が前月比+2.7%(前年比+25%)、ホテル代が同+7.9%(同+17%)、レンタカー代も同+5.2%となった。
不動産の賃貸料は前年比+2.5%と相対的には低い上昇幅となったが、コロナ禍で賃料が低下した地域(オフィス街など)の上昇復活のみでなく、それ以外の地域を含めて上昇が観察される。CPIの1/3が自家所有の家が賃貸となったと仮定した場合の帰属家賃であり、賃料の上昇が反映されてじわじわとCPIが上がっていく要素になることも懸念される。
ちなみにニューヨーク連銀のアンケート調査では、1年後のインフレ率予想が6月時点で4.8%(5月は4%)と来年のFRB見通し(2.1%)を大きく上回っている。
FRBは果たして従来の主張を繰り返していくのであろうか。目下のところ、8月にはジャクソンホール会議あたりで量的緩和の段階的縮小を年末あたりから始めると表明すると予想されているが、金利引き上げが22年に早まるとの見方も出てきた。
量的緩和の段階的縮小にあたっては、とくに住宅価格の上昇を支援する形となるFRBによる住宅ローン担保債券の買い入れ(毎月400億ドル)を国債(毎月800億ドル)に先行して縮小すべきだ、との議論も盛んである。
CPIの上昇はバイデン政権に対する格好の批判材料ともなってくる。現に共和党の上院院内総務であるマッコ―ネル議員は「米国の家族は、スーパーマーケットからガソリンスタンド、中古車販売場にいたるまで、あらゆるところで物価上昇を体感している」「民主党の無用な財政バラマキ(spending spree)のせいだ」とバイデン政権を厳しく批判している。