5月の米国住宅価格の上昇率は、物件の払底に加えて、春先の木材価格の急騰(いわゆるウッド・ショック)、低利住宅ローンなどの効果が相まって、ほぼ20年ぶりに記録を塗り替えた。
中古住宅の平均売り出し価格は前年比では24%の高騰を示して史上初めて35万ドルを越えた。
住宅販売価格指数として著名なS&Pケース・シラー指数でみても4月の前年比+14.6%と30年ぶりの上昇率を記録した。とくに20大都市の指数はサンディエゴ、フェニックス、シアトルなどで高騰を示した。
米国の住宅販売価格は、昨年の夏以降、急騰を示してきた。コロナ感染が拡大してロックダウンが続く中で、広くて安全な戸建て住宅を求める動きが強まったためだ。とくにコロナ感染の拡大でリモートワークが拡大したため、郊外のより広い住宅に対する需要が拡大した。
一方で住宅販売は5月も-0.9%と4か月連続で減少を示した。これは、住宅価格高騰が続く中で、賃貸アパートなどから一戸建てに移りたい若年層などにとっては価格の急騰であきらめざるを得ない層が広がったためだ。
あまりにも価格が高くなって、若手や低所得層では住宅ローンを組めなくなってきている。6月11日までの一週間の住宅ローン申し込み額が前年同期比で17%低下しているほどだ。
しかしながら、そうした第一次取得者の取得が困難化する一方で、投機目的での住宅取得は低金利に押されて需要が衰えず、5月中販売の半分以上の物件が売出価格を越えるビッドアップ(どうしても欲しいために売出価格に上乗せする)が頻発した。ちなみに5月中、百万ドル以上の物件は前年比倍増の勢いを示した。
5月の新設住宅着工件数は前月の4月に比べて3.6%も増加した。ただ、適地の供給が次第に狭まり、建設コストが高まる中で供給過小が直ちに解消される可能性は乏しい。
全米における5月の新設住宅は15,000軒増加し、同在庫としては33万戸と前年比5.8%増加した。これは現状の住宅供給の5.1か月分にあたり、1月の3.6か月分と比べると住宅在庫が増えていることを示している。しかし、それでも平均して売出しから20日足らずで完売するような需要のヒートアップは続いている。
ウォールストリートではブラックロックが60億ドルで1万7千軒の住宅在庫を有する不動産会社を買収するなど、住宅ブームを当て込んだ動きが後を絶たない。
住宅価格は賃貸家賃や帰属家賃を通じて消費者物価に与える影響も大きい。家賃のウェイトは、消費者物価全体の1/3にあたる。従って、このまま住宅価格の高騰が続けば、消費者物価の上昇をさらにあおる結果となろう。
こうした中、FRBでは住宅価格高騰に警戒感を強めている。ボストン連銀のローゼングリーン総裁は「住宅産業の好不況サイクルの波が過去、米国の金融システムの安定を阻害してきた」と発言した。
議論が高まっているのはFRBが毎月1,200億ドルにおよぶ量的緩和を続ける中で米国債(月間800億ドル)と並んで住宅ローン担保証券(MBS、同400億ドル)を買い続けていることだ。
ダラス連銀のカプラン総裁は「住宅ローンの低利供給を通じて住宅市場をサポートしてきたMBSの買い入れは見直すべきだ」と指摘した。FRBが過熱する住宅市場への低利資金供給を続けることに反対の意を示したわけだ。
FRBは7月~8月にも量的緩和の段階的な縮小(テーパリング)を検討して早ければ年末にもテーパリングを開始するものとみられている。
しかし、市場では昨年3月以来9,820億ドルに達するMBSを購入し続けてきたFRBが、米国債に先駆けてMBSのテーパリングを先行して実施するという二段階方式(Two Speed Taper)を取るのではないか、との憶測が高まっている。