7月14日に発表された米銀大手三行の第二四半期(4~6月)決算では、新型コロナウィルス感染拡大に伴う貸出先の経営悪化懸念から貸倒引当金の計上が280億ドル(約3兆円)と高水準になった。この結果、ウェルスファーゴが赤字となり、JPモルガンとシティグループが減益となった。
日本の銀行全行の合計を上回る時価総額を誇るJPモルガンでは105億ドルの貸倒引当金を計上した。ジミー・ダイモンCEOは「経済状況が悪化すればさらに増えよう」「将来どうなるかはわからないが、これは普通の景気後退ではない」「最悪のケースに備える必要がある」と懸念を表明した。
JPモルガンの第二四半期純益は前年比51%減の47億ドルとなった。ただ当期はFRBの大幅利下げや量的緩和拡大から米国債のトレーディングなど債券トレーディング部門の収入が前年比99%増加したことに助けられた。今後はトレーディング部門にこれほどの好調を望むのはむずかしい。なお、同行は6月末の貸出残高が企業の資金繰り悪化懸念から前年比4%増となった一方、預金は流動性として滞留させる動きが広まり、同25%の大幅増となった。
シティグループも、JPモルガンと同様に金利環境に恵まれてトレーディング収入が前年比60%増えたにもかかわらず、貸倒引当金として79億ドルを計上した。この結果、純益は前年比73%の減益の13億ドルにとどまった。
ウェルスファーゴではリーマンショック以来初の四半期決算赤字となる24億ドルの赤字を計上した。前年同期は65億ドルの黒字であった。この結果、大幅な減配(1株当たり51セントから10セントに引き下げ)に追い込まれて株価も4%強の下落となった。もとも同行は時価総額1位、全米支店数もトップという優良行であった。しかし、2016年に5千人に及ぶ従業員がボーナス欲しさに顧客の承諾も得ずに架空口座やクレジット口座を5年間にわたって勝手に開設するという米国最大の金融スキャンダルが暴露された。顧客からの集団訴訟に敗北したうえ、2億ドル近い制裁金を課せられて株価も低迷を続けてきた。
シティグループの貸倒引当金計上にあたっての経済見通しは、失業率(6月 11.1%)が「10%台の前半から真ん中」でGDP成長率は大きく落ち込む、というものである。ウェルスファーゴも年末の失業率が10%まで低下する、今年下期のGDP成長率がプラスに回復する、と予想している。
米銀の収益はFRBによる政策金利のゼロ金利への引き下げを反映した利鞘の縮小も響いている。上記三行の貸出・証券等の運用利回りと預金などの調達金利の利鞘は2.1%(前年同期2.6%)まで縮小している。
米銀大手行はリーマンショック後、低金利と借金によるレバレッジ拡大を狙った企業向け貸出と個人向けの住宅ローン、自動車ローンの拡大などを背景に長年にわたって資産規模の増大と収益拡大を続けてきた。
今般のパンデミック蔓延によるロックダウンの影響で、歴史的に高水準となっている債務の返済が滞る懸念が高まった。さらにロックダウン解除後、カリフォルニア、テキサス、フロリダといった人口の多い州でのコロナウィルスの感染が再拡大して全米で毎日6万人以上というピーク水準を更新する事態となっているのも悪影響の拡大が懸念される。
ジミー・ダイモンCEOが懸念するように今後、企業倒産や家計破綻が相次いで銀行収益を今後も圧迫するものとみられる。シティグループのコルバットCEOが「パンデミックの動静は今後の経済活動の成否を握っている。ワクチンが完成して万人に行きわたる(widely available)まで経済面の緊張が解けることはない」とみられる。
今回のパンデミック下における金融経済面の特徴は、FRBの金融超緩和で株価はV字回復に至ったものの、実態経済は高失業、マイナス成長で不振が続いているというディカップリングが続いていることだ。しかし、いつまでも両者が乖離したまま、ということはできない。米銀が将来の企業倒産、失業増に伴う住宅ローン、消費者ローンなどの延滞に備えて貸倒引当金を多額に計上し始めたということは、日本のバブル崩壊の影響が最終的には金融機関の不良資産処理に行きついたのと同じことだ。NY株価上昇の持続性は慎重にみておくべきであろう。