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日銀に「物価の安定」も「為替の安定」も期待できない理由

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【門間前日銀理事の経済診断】中央銀行のミッションに再考の余地

公開日: 2022/08/03 (マーケット)

日銀本店=Reuters 日銀本店=Reuters

 最近、「日銀の金融政策がわかりにくい」という声が増えているように思う。

 値上げが相次ぎ、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、日銀が目標としてきた2%を既に超えている。日銀は7月の展望レポートで、2022年度の物価見通しを2.3%に上方修正した。これは、消費税率の引き上げの影響を受けた年を除けば、31年ぶりの高いインフレ率である。

 今は多くの人々が、この物価上昇を何とかしてほしいと考えている。「物価の安定」を責務とする日銀が目の前のインフレを放置している状況は、国民には理解しにくいだろう。

 もちろん、今起きているのはグローバルな物価上昇であり、日本だけがインフレで苦しんでいるわけではない。ただ、他の中央銀行はインフレ抑制に動き出している。米国は6月に続いて7月も一度に0.75%の大幅利上げを行った。春先までほぼゼロだった政策金利は、あっという間に2.5%に近づいた。

 欧州中央銀行も7月に0.5%の利上げを行い、8年続いたマイナス金利から脱却した。スイスやデンマークがマイナス金利から脱却するのも時間の問題であり、日銀だけがマイナス金利を延々と続けることになる。

 そのことが為替市場では円安圧力になる。日銀が円安を放置している、あるいは促しているようにさえ見える点にも、人々は違和感を覚えている。

 以上のような「わかりにくさ」がなぜ生じているのか考えてみよう。第一に、2%インフレの時間軸である。日銀が目標としているのは、中長期にわたる持続的な2%インフレである。

 中長期というのは半年や1年ではなく、3年、5年というイメージだ。そういう時間軸で見れば、2%物価目標の達成は見通せておらず、その意味では金融緩和を続ける日銀の判断は正しい。

 しかし第二に、そもそも持続的な2%インフレを目標としていること自体、多くの人には理解しにくいだろう。世界の多くの中央銀行や経済学者の考えでは、持続的に2%程度のインフレがあれば、それに応じて金利の水準も高めにしておけるため、いざというときに利下げの「のりしろ」があって好都合とされる。

 理屈はそのとおりであり、したがって2%物価目標がグローバルスタンダードになっている。ところが、現実を踏まえると、日本で持続的な2%インフレが実現する可能性は低い。

 そういう国で2%インフレが定着するまで金融緩和を続けようとすると、結局いつまでも金利を上げられず、かえって「のりしろ」を作れなくなって本末転倒である。日本は、2%物価目標の意義を説明しづらい国なのである。

 第三に、今起きている物価の上昇は、金融政策で抑えられる性格のものではない。現在のインフレの最大の原因は、原油など輸入品の価格上昇である。そうしたコスト・インフレを金融政策で抑えるということは、大幅な利上げで景気を悪化させ、海外から来るインフレを国内のデフレで相殺することを意味する。

 つまり、コスト・プッシュ型の物価上昇が起きている時、中央銀行には二つの選択肢しかない。ひとつは、輸入インフレはコントロールできないと諦めて、物価上昇としばらく付き合っていくことである。

 もうひとつは、何が何でも物価上昇を抑えるよう国内経済を不況にすることである。「悪い選択肢」と「より悪い選択肢」しかないので、日銀は仕方なく「悪い選択肢」を選択しているだけである。今の物価上昇に関する限り、日銀に文句を言うのは無いものねだりである。

 第四に、現在の政府・日銀の考え方では、円安を是正するのは日銀の仕事ではない。この考え方がわかりにくいのは、実際には日銀の低金利政策が円安を招いている面があるからである。

 政策的に円安を是正するなら財務省による為替介入しかないが、それは例外的にしか認められないというのが国際合意であり、実際のところ効果があるかどうかもわからない。

 ならば、半年で25円も進むような急速な円安に対し、金融政策が何もしないでいることに、多くの人々が素朴な違和感を抱いてもしかたがないように思う。

 このように、今の金融政策が人々に理解されにくい理由を突き詰めてみると、現在日銀に与えられているミッションそのものに、矛盾があるように思えてくる。

 すなわち、日銀の責務は「物価の安定」ということになっているのに、人々が止めてほしいと願う今の物価上昇を、日銀に止めることはできない。一方、日銀は中長期的な2%インフレこそ「物価の安定」だと言うが、それも実際には日銀だけでは実現できない。

 逆に、為替相場については、金融政策が影響を与えるケースが多いにもかかわらず、それは日銀の仕事ではないことになっている。本当は金融政策の仕事を、「経済情勢に応じた適切な金融環境の提供」と捉えるべきではないだろうか。すると、為替相場の安定もそこに含まれる。

 今の日銀は、できないことをミッションとし、できることの一部がミッションに含まれていない。日銀の政策がわかりにくいのは、日銀の言動に難があるからではなく、ミッションを巡る根源的な矛盾から来ているように思える。

 その点を改めて整理し直さない限り、日銀の政策は今後もわかりにくいままだろう。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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