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日銀、イールドカーブ・コントロールを1月にも廃止へ

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【門間前日銀理事の経済診断】緩和の「奇策」すでに使命終える

公開日: 2023/01/05 (マーケット)

Reuters Reuters

 昨年12月20日に日銀は長期金利の上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げた。二つの点で異例であった。第一に、それまでの日銀の情報発信からは唐突感があり、市場が予想していないタイミングでの政策修正であった。

 第二に、政策修正を巡る日銀の説明と、市場やメディアの理解が分かれている。黒田総裁は国債市場のゆがみを是正する措置であり「利上げ」ではないと言うが、市場関係者はほぼ一様に「事実上の利上げ」と受け止めている。

 また、黒田総裁はその後の講演でも「出口の一歩ということでは全くない」と強調しているが、メディアや識者の中には「大きな転換点」との見方も少なくない。

 コミュニケーションがこれほどうまくいっていない金融政策は、世界的にも歴史的にも珍しい。しかし、そうなってしまっていることには理由がある。日銀が現在も続けているイールドカーブ・コントロール(以下YCC)には、その手法の性格として、中央銀行が正直な情報発信を行いにくい面がある。

 金融政策は本来、短期金利の操作を通じて行う。ところがYCCは、短期金利だけでなく長期金利(具体的には10年物国債金利)を日銀が操作する政策手法である。そもそもこうした特殊な政策手法を日銀はなぜ選択しているのだろうか。

 話は10年前にさかのぼる。日銀は2013年4月、2%物価目標を2年程度で達成するとして、いわゆる異次元の金融緩和に着手した。異次元緩和は正式には「量的・質的金融緩和」と呼ばれ、当初は国債の大量買い入れが中心であった。

 しかし、物価への効果が十分顕れないまま、あっという間に2年が過ぎた。その時点での国債買い入れはさらに何年も続けられる規模ではなかったので、日銀は別の緩和手段を探り、2016年1月に短期金利をマイナスにした。ところが今度は、マイナス金利が長期金利に波及して金融機関や年金・保険への悪影響が出た。

 そうした長期金利の過度な低下を防ぐ「苦肉の策」として、同年9月に導入されたのがYCCである。しかし、長期金利を中央銀行が決めるというやり方には大きな欠陥がある。中央銀行が長期金利の水準を変更する際、事前にその可能性を徐々に市場に意識させるソフトランディングが難しいのである。

 短期金利の場合、例えば米国でも、「次の会合では0.5%の利上げか」といった観測が、数週間も前から当たり前のように市場で共有される。しかし長期金利を中央銀行が決めている場合は、事前にその引き上げ予想が広まると、その時点で長期金利に猛烈な上昇圧力がかかり、YCC自体が成り立たなくなってしまう。市場で決まるべきものを中央銀行が無理やり決める仕組みの本質的な矛盾である。

 YCCが2016年に導入されて以来、概ね無難な運営が続いていたのは、物価が2%目標に全く達していなかったからである。「日銀が長期金利の引き上げに動く」と市場が思惑を強めるような場面はほとんどなく、YCCの欠陥が露呈しなかったのである。

 ところが昨年春ごろからは、世界的なインフレやそれに伴う海外金利の上昇が顕著になり、日本でも年末には物価上昇率が4%に迫るまでになった。円相場も一時1ドル150円台まで急落し、低金利を放置する日銀への風当たりが強まった。そうした情勢を背景に、「日銀による長期金利の引き上げは時間の問題」という思惑が海外勢を中心に広まった。

 そうなるとYCCを安定的に運営したい日銀は、「長期金利の引き上げなど絶対にしない」というメッセージをむしろ強めざるをえなくなる。日銀はYCCの修正を実際に決めるその日まで、表向きは「修正するつもりはない」と言い続けるしかないのである。YCCの修正は必ずサプライズになる。

 12月の政策修正が本格的な利上げへの転換点になるかどうかは、市場の見方にも濃淡がある。日銀は2%物価目標の達成は視野に入っていないと判断しており、だからこそ「出口の一歩ではない」と説明している。

 日銀の判断自体は正しいと筆者は思うが、市場の疑心暗鬼が払しょくされることはないだろう。YCCのもとでの利上げは突然にやって来るものであることが、12月の実例で強く印象づけられてしまったからである。

 12月の措置の後も国債市場にはなおゆがみが残っている。さらなる利上げへの思惑は根強く、今後も長期金利への上昇圧力がかかり続けるとみられる。春に日銀総裁の交代を控えていることや、2%物価目標を書いた政府と日銀の共同声明が見直されると報道されていることも、市場の思惑をさらに強めている。投機筋が再び国債売り圧力を強めるのは、時間の問題だろう。

 既述の通りYCCは、異次元緩和が行き詰まった局面で打開策として登場した奇策であり、今それを続ける意義は乏しい。国債市場の機能に悪影響を与えるのはもちろんだが、昨年の急速な円安もYCCによって増幅された面がある。役割を終えて弊害だけが目立つようになり、日銀の情報発信まで不透明にするYCCは、早くやめた方がよい。

 YCCの撤廃は金融緩和の後退ではなく、金融緩和の手法の改善である。早ければこの1月にも日銀はYCCの撤廃を検討するのではないか。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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