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日銀は「財政従属」に陥っているという誤解

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【門間前日銀理事の経済診断】財政との関係を分析し発信する責任を怠っていないか

公開日: 2022/10/06 (マーケット)

黒田総裁=Reuters 黒田総裁=Reuters

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

 日銀がイールドカーブ・コントロールを始めて先月で丸6年になった。日銀自身が当初これをどのくらい続けると想定していたのかはわからないが、6年というのは既にずいぶん長い。

 この先、2%物価目標の達成が視野に入るまでこれを続けると言うのであれば、そもそも「出口」が訪れるかどうかもわからない。

 もはや金融政策に意味のある追加緩和の余地はなく、景気に不安が生じる局面では財政政策で対応することになる。実際、コロナ禍では大規模な財政支出が行われ、最近の円安や物価高への対応も財政支援で行われている。

 今月とりまとめられる予定の新たな経済対策は、30兆円級の大がかりなものになるとの観測もある。

 長きにわたる超低金利政策は、企業や家計が資金を借入れて前向きの経済活動を増やす、という動きにはあまりつながっていない。

 一方、日本の政府債務残高はGDPの250%程度と、国際比較で群を抜く規模に達している。低金利は財政赤字を助長しているだけという批判は少なくない。

 そうした批判は、「金利がひとたび上昇すれば財政が破綻する」という警告とセットで語られることが多い。政府債務残高が膨れ上がった状態で金利が上がると、利払い費が急増して国債の追加発行が必要になり、政府債務の膨張が止まらなくなると言うのである。

 そうだとすると、日銀は「金利を上げたくても上げられない」ということになる。

 このように中央銀行が政府に忖度して利上げできない状況に陥ることを「財政従属(fiscal dominance)」という。8月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は+2.8%となり、これは31年ぶりの高い上昇率である。

 それでも日銀が一向に利上げの構えを見せないのは、日銀がこの「財政従属」に陥っているからではないかと懸念する声がある。

 しかし、この懸念は次の二つの点で的を射ていないと思う。第一に、日銀が利上げを行わないのは、単に「2%物価目標の達成が視野に入ってきていない」からである。

 これは今の日銀にとって、利上げをしない100%正当な理由である。確かに足元は物価の上昇が目立っており、この先、消費者物価の前年比は3%台に乗る可能性が高い。しかし、この物価上昇が中期的に持続する可能性は低い。

 消費者物価の内訳を見ると、「財」が前年比+5.7%と大幅に上昇している一方、「サービス」の前年比はわずかに+0.2%である。今のインフレは、原材料価格や円安によるコスト増が「財」の価格に転嫁されているだけである。

 「サービス」のコストは人件費が大きな割合を占めるので、賃金が上がらないままなら「サービス」のインフレは起きにくい。

 原材料コストの価格転嫁はいずれ一巡するので、その時は「財」のインフレも低下してくる。結局、賃金の現状が大きく変わらない限り、日銀が目指す「持続的な2%インフレ」は実現しない。

 日銀はそれがわかっているから利上げしないだけであって、「本当は利上げしたい」などとは微塵も思っていない。

 第二の論点として、仮に将来日銀が利上げをする日が来ても、それによる利払い費の増大で国の財政が火の車になることは考えにくい。

 日銀は現在、10年物の国債利回りを「ゼロ%程度」に抑えている。具体的な上限は0.25%である。日銀が今の考え方を続ける限り、2%物価目標の達成が確実になるまで利上げは行われない。

 もしかすると微修正はあるかもしれないが、意味のあるほどの利上げはないだろう。つまり、日銀が財政にも影響が出るほどの利上げに踏み出すのは、その背後で安定的な2%インフレが日本経済に根付きつつある場合に限られる。

 安定的な2%インフレが根付くためには、それ以上の賃金上昇が安定的に根付かなければならない。例えば毎年3%程度は賃金が上がる状態が見えてくることが、利上げの必要条件である。ちなみに最近の賃金上昇率は平均的に1%台半ばにとどまっており、今述べた必要条件には遠く及ばない。

 賃金が毎年3%上がり続けるのであれば、名目GDPも毎年そのぐらい成長しなければならない。それに比例して税収も伸びるはずなので、財政が一方的に悪化することにはならない。

 「金利が上がれば財政が火の車になる」というのは、利払い費だけに着目した一方的な見方である。名目GDPや税収が大きく伸びるような時でなければそもそも金利は上がらない、という基本的な関係を押さえておくべきである。

 以上を踏まえると、「日銀の低金利政策が財政規律をゆがめ、このままでは財政の持続性が損なわれる」という批判は言い過ぎである。

 少なくとも、現状程度の財政赤字や当面見込まれる経済対策が、政府の過剰債務を招いて将来に禍根を残すという可能性はきわめて低いと思われる。

 ただ、日本の財政の持続性が損なわれている可能性について、また超低金利の長期化がそれを助長している可能性について、心配する声が少なくないという現実を頭から無視するのはよくない。

 日銀としても、様々な問題があるイールドカーブ・コントロールをこのままずっと続けるのであれば、財政の持続性に関してみずから分析し発信する努力も求められるように思う。
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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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