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共同声明より大事な政府と日銀の意識合わせ

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【門間前日銀理事の経済診断】金融政策を正常化すべきか、政府・日銀は意思疎通を

公開日: 2023/02/02 (マーケット)

日銀本店=Reuters 日銀本店=Reuters

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

 日銀の総裁交代がこの春に迫る。10年になる異次元緩和の弊害を指摘する声も多い。消費者物価の上昇率は41年ぶりの4%台である。マイナス金利や長期金利の操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)は、まだ続けるべきなのだろうか。

 政府にもそういう問題意識があるのだろう。昨年末あたりから、岸田政権が日銀の新総裁との間で共同声明を見直すとの報道が出ている。共同声明というのは政府と日銀が2013年1月22日に発表したものであり、その時に日銀は初めて2%物価目標を導入した。

 政府と日銀が異例の共同声明を作った理由は、安倍政権が主導した当時の経済政策において、金融政策が大きな役割を期待されたからである。

 ただ、実際に共同声明に書かれている文章は、2%物価目標の追求を何がなんでも優先し、弊害がありうる緩和手段の動員まで謳ったものではない。よく読むとその基本認識は、「2%物価目標の達成は難しいので金融政策で無理をしてはいけない」という趣旨のものであることがわかる。

 異次元緩和は共同声明から約2か月半後の4月、日銀の新しい総裁・副総裁のもとで開始された。異次元緩和と呼ばれるようになったのは、2013年4月4日の日銀の政策発表文に「量・質ともに次元の違う金融緩和を行う」と書いてあるからである。共同声明には「金融緩和を推進」としか書かれていなかったので、それを超えて「異次元」にしたのは日銀の自主的な判断である。

 当初、2%物価目標を「2年」で達成するとしていたのも、日銀の自主的な判断であった。共同声明には「できるだけ早期に」としか書かれていなかったのに、日銀がみずからの政策発表文で「2年程度の期間を念頭に置いて」としたのである。

 重要な点として、共同声明には「金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」という一文がある。

 つまり、共同声明のとおりに日銀が金融政策を行えば、金融政策が日本経済に問題を引き起こすことはない。金融政策の副作用や弊害を改めようというのであれば、求められるのは共同声明の見直しではなく、日銀自身の変化である。

 このように、共同声明そのものには年月に耐えうる普遍的な考え方が盛り込まれており、今日でもそれ自体に大きな不都合はない。共同声明は見直したければ見直してもいいが、見直さなければならないものではないのである。

 もちろん、2%物価目標は10年達成できていないのだから、この目標を掲げ続けるのは不自然ではないかという論点はある。ただ、共同声明には、そもそも成長戦略が奏功しない限り2%物価目標は難しいという考えも盛り込まれている。

 成長戦略が力不足なら日銀がいくら大胆に緩和しても2%物価目標の達成は難しいという点は、共同声明において当初から十分想定されていたのである。したがって物価目標が10年間達成できていないという現実だけをもって、共同声明が間違っていたということにはならない。

 さて、そのうえで現在の金融政策を取り巻く状況をみると、消費者物価が41年ぶりの高い上昇率になっている。異次元緩和を開始して以来、2%物価目標を達成するチャンスは最も高まっている。しかし、今の物価上昇はほぼすべてが輸入コストの価格転嫁によるものなので、今後賃金の上昇率が高まらない限り、物価上昇の持続性に疑問が残ることも確かである。

 このように「2%物価目標達成のチャンスは出てきたが、そのチャンスをものにするのは依然として簡単ではない」という今の状況に、金融政策はどう対応すべきだろうか。二つの考え方がある。

 第一の考え方は、日銀は今から徐々に金融政策の正常化を始めた方が良いという考え方である。今の日銀はマイナス金利やYCCのような極端な政策手段を使っているので、それらをこれ以上長く引っ張り続けていくことにはリスクがある。2%物価目標の達成がいよいよ近づいた時に、急速に金利を引き上げなければならなくなるからである。

 第二の考え方は、長らく無理と思われていた2%物価目標を達成する千載一遇のチャンスなのだから、2%物価目標の達成が確実になるまで最大限の緩和を続けるべきという考え方である。

 筆者はこのうち第一の考え方をとるべきだと思うが、その点については日銀自身が考え方を明らかにすべきである。

 さらに重要なのは、日銀がいずれの考え方をとるにせよ、その考え方に対して政府や国民の十分な支持があることである。もし政府が第二の考え方を望んでいるのに、日銀が第一の考え方で突き進み、結果的に2%物価目標が達成できなかった場合、政府と日銀の関係が決定的に悪化すると予想されるからである。

 政府と日銀は、そういう次元での実質的な意識合わせを、あらかじめしっかり行っておく必要がある。それこそが、共同声明の見直しなどという形式的な作業ではなしえない、日銀法の精神に基づく本当の意思疎通である。
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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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