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「国の借金のツケを次世代へ回すな」は間違っている

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【門間前日銀理事の経済診断(31)】財政再建は民間の資金余剰の動向次第

公開日: 2020/06/02 (政治, マーケット)

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 コロナショックで金融財政政策が総動員されている。日本の政府債務残高は対GDP比で約240%に達しており、先進国の中で圧倒的に大きい。いずれ状況が落ち着いてくれば、財政再建に向けた議論が活発になるだろう。

 「これからの日本のために財政を考える」という財務省の啓蒙パンフレットがある。それを開くと真っ先に飛び込んでくるのが、「子どもたちの世代に負担を先送りし続けています」という現状認識だ。国の借金は次世代へのツケなのだからできるだけ減らしておくのが現世代の責任、と国民に訴えているのである。

 さて、これは正しいだろうか。この「負担先送り論」の背後には「国の借金は返さなければならない」という重要な前提がある。もちろん、発行された個々の国債が期日に償還されなければならないのは当たり前である。論点は、国債の償還日が来たらそれを次の国債で借り換えるということを繰り返して、事実上いつまでも「返さない」でいることは可能なのではないか、状況によっては返さない方が良いとさえ言えるのではないか、という点にある。

 もちろん、国といえども、無限に借金ができてそれを無限に借り換え続けることができる、と言えば言い過ぎになる。しかし、今ある借金を「今の世代」か「次の世代」のうちに全部返さなければならない、というのも言い過ぎである。

 この両極端の間のどこかに真実があるということは言えるが、具体的に財政再建の適切なタイミングやペースを特定するのは意外に難しい。政府債務の対GDP比が240%で他国より圧倒的に大きい、というだけでは財政再建が喫緊の課題だとは言い切れない。巨額の債務であっても、その借り換えが容易な環境が今後も長く続くかどうかによって、財政再建の緊急性は当然変わってくる。

 そこでマクロ的な資金循環の状況を確かめてみよう。その場合、対GDPで240%というグロスの債務よりも、資産と負債をネットアウトした純負債の方が整理しやすい。日銀の資金循環統計を用いると、2019年末の一般政府の純金融負債は対GDP比126%という計算になる。それでも大きな規模ではあるが、民間の純金融資産は対GDP比193%と、もっとはるかに大きい。

 つまり、政府の多額の債務の裏側には、それを上回る民間の金融資産が存在するのである。もちろん、これは事後的なバランスの確認に過ぎず、それをもたらした因果関係には二つの可能性がある。一つ目は、政府がどんどん借金を増やしていくので、民間は自分たちが使いたかった資金を、しかたなく貯蓄に回しているという可能性である。もう一つは、民間が投資や消費に慎重で多額の資金を余らせているので、政府が経済活動を下支えするため、しかたなくその資金を国債で吸い上げて活用しているという可能性である。

 このように論理的には二つの可能性があるが、低インフレ・低金利が長期間続いている日本の現実を踏まえれば、後者の可能性の方が圧倒的に大きい。現存する巨額の政府債務は、政府が好んで積み上げてきたわけではなく、長く続く低温経済がさらに冷え込むのを防ぐよう政府が努めてきた結果なのである。

 そうだとすれば、そもそも財政再建のタイミングやペースは、政府が強い意志をもって勝手に決められるというようなものではなく、民間の資金余剰の動向次第なのである。民間の資金余剰が減らないのに政府が無理やり債務を減らそうとすれば、経済全体で有効に使われない資金がさらに積み上がるだけである。過去20年以上にわたり、財政再建を進めては頓挫するということの繰り返しだったのは、財政規律に問題があったからではなく、民間の資金余剰が減らなかったからなのである。

 この基本原理はコロナ後も変わらない。確かに、将来何らかの理由で万が一金利が急上昇するリスクを想定して、政府債務はできるだけ減らしておく方が安心だ、という考えには一理ある。しかし他方では、民間の資金余剰が減らない中で財政再建を進めれば、経済がさらに冷え込むというリスクも引き続き存在する。両方向のリスクがある以上、財政再建を巡る議論は、民間経済の情勢を分析しながらバランス良く進めるほかはないのである。

 少なくとも、政府債務は「次世代への負担の先送り」という必ずしも正しくないレトリックに基づいて、財政再建の緊急性を議論すべきではない。確かに政府の債務は次世代に受け継がれていくであろうが、膨大な民間の金融資産も遺産相続等によって次世代に受け継がれていくのである。

 また、財政再建を「世代間」の負担の平準化と位置づけてしまうことには、どのような追加負担を国民に求めるべきかの議論にもゆがみを与える可能性がある。「現世代」という世代全体が「次世代」に対して責任を負っているという発想は、一律性・逆進性の強い性格の負担増も仕方がないと、人々に思わせるバイアスを持ちうるからである。

 同じ世代の中でも所得や富は偏在している。コロナショックで格差がさらに拡大するとも言われている。継続的な課題となっている社会保障制度の改革と併せて、「世代内」で所得や富をどう再分配すべきなのか、まずはその議論を十分尽くすべきであろう。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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