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金融緩和のやりつくし、菅ノミクスは必然的に「改革」へ

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【門間前日銀理事の経済診断(35)】だが「改革」は金融緩和よりはるかに難しい

公開日: 2020/10/02 (マーケット)

Reuters Reuters

 アベノミクスの「第一の矢」という位置づけで2013年に始められた異次元緩和。安倍前首相が退陣するまでの約7年半で得られた成果は何だったのだろうか。

 一般的な理解は、円安・株高に勢いをつけ、アベノミクスのスタートダッシュを成功に導いたことであろう。あるいは、戦後最長並みの景気拡大や、それに伴う雇用情勢の大幅な改善を、緩和的な金融環境によって支え続けたとも言えるかもしれない。

 そうした見方を否定するつもりはないが、これらがどこまで本当に金融緩和の効果だったのかは判定が難しい。この時期は米国でも、史上最長となる10年8か月の景気拡大期にあり、失業率は50年ぶりの水準まで低下していた。外部環境に恵まれた面は大きかった。

 日本の景気拡大は、2018年10月に終焉を迎えたが、その主因は海外経済の減速であった。2018年の長短金利は2013年よりも低く、日銀のバランスシートは2013年よりも大きい。それでも海外経済が減速すれば、金融緩和とは関係なく、日本の景気は腰折れするのである。

 異次元緩和がもたらしたもっと明白な「成果」は、経済政策を巡る論調を大きく変えたことである。日銀が金融緩和を限界までやり尽くしたことによって、①2%物価目標はそれほど重要ではない、②日本経済の成長力を高めるには構造改革しかない、という二つの正論が広く認識されるようになった。

 第一の点、すなわち2%目標が重要でないという認識は、菅首相が日銀の黒田総裁を高く評価していることにも現れている。日銀は当初、2%物価目標を2年程度で実現すると宣言して異次元緩和を開始した。その後の実績を見ると、年度平均のインフレが1%に達したことすら、消費税率引き上げの影響を除けば一度もない。

 日銀の見通しによれば、経済が2022年度まで緩やかな改善基調を続けても、インフレは1%に達しない。10年かけて目標の半分にも達しないのだから、目標達成度で判定するなら、日銀には落第点しかつかないはずだ。その日銀を時の首相が高く評価しているのは、2%物価目標はもう重要ではないという認識が、国民に浸透した証である。

 もともと2%物価目標は、安倍前首相の意向で2013年に導入された。しかし数年経過したところで、日本で2%インフレの実現は困難であることと、それが実現できなくても景気や雇用は改善することが、はっきりした。安倍前首相は2%物価目標への関心を正しく失い、菅首相はその点も含めてアベノミクスを継承した。

 第二の点、すなわち日本経済を巡る真の論点は金融政策ではなく構造改革にある、という認識が定着したことはさらに意義深い。

 アベノミクスは「デフレ脱却」を一丁目一番地に掲げてスタートした。その背景には、「失われた20年」とも言われる日本経済の停滞は、金融緩和の不足によってもたらされた面が大きいという論調があった。それは政治家、有識者、メディアなどに広く見られた。

 結局、アベノミクス景気は長く続いたとは言え、その間の実質GDPの増え方は極めて緩やかであった。「失われた20年」の間に幾度か訪れた景気回復局面よりも、アベノミクス景気はさらに低成長だった。

 今、その低成長が金融緩和の不足のせいだと言う人は、筆者の知る限り一人もいない。「第一の矢」は十分飛んだのに「第三の矢」が飛ばなかったことに問題がある、というのが多くの人々の理解である。このコンセンサスは「第一の矢」が大きく飛び切ったからこそ確立されたものである。

 日銀は膨大な国債買入れやマイナス金利だけでなく、ETF買入れやイールドカーブ・コントロールなど他の主要中銀が尻込みする離れ業も、果敢に行ってきた。日銀の徹底した緩和姿勢が、金融緩和が足りないという批判を根絶させたのである。

 菅首相が「デフレ脱却」ではなく「改革」に重きを置くのは、この金融緩和の「やり尽くし」を踏まえれば必然的な流れである。もちろん、改革は金融緩和よりはるかに難しい。

 それは、既得権益の打破を要するからだけではない。具体的に何をやれば一国の潜在成長率を引き上げられるのか、専門家の間ですら意見が一致しない点に、構造改革の根源的な難しさがある。規制緩和、ワイズ・スペンディング、生産性の引き上げ、などのワードは誰でも口にする。しかし何が「ワイズ」なのか、マクロの生産性はどうやれば上がるのか、いずれも簡単な答えはない。

 アベノミクスの「第三の矢」については、看板を頻繁に掛け替えて「やってる感」を出してきただけだ、何事も中途半端だった、とよく言われる。政治リーダーシップの欠如を批判するのはたやすい。しかし、もともと成長戦略に決まった正解はなく、試行錯誤に頼らざるをえない面がある。仮に成果が出るとしてもそれには時間がかかる。

 菅政権が実現手段のあやふやなマクロのビジョンを強調せず、突破力を活かせる個別分野で改革を重ねていこうとしているのも、一つのアプローチなのかもしれない。

 いずれにせよ、金融政策に関しては、非建設的な批判も、非現実的な期待も、すっかり無くなった。政策論の環境をここまで変えたのは、紛れもなく異次元緩和の大きな成果である。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。
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