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世界の政府債務がGDP比100%に、資産格差拡大こそ原因

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【門間前日銀理事の経済診断(36)】格差是正で成長力高め、債務膨張に歯止めを

公開日: 2020/11/05 (政治, マーケット)

ピケティ氏=Reuters ピケティ氏=Reuters

 国際通貨基金(IMF)が先月公表した最新の「財政モニター」によれば、世界全体の政府債務は、史上初めてGDPのほぼ100%に達する見込みだ。先進国だけでみれば約125%となる。いうまでもなく、コロナ禍に対する各国の財政出動が直接の理由である。しかし、それだけではない。

 先進国について言えば、政府債務の対GDP比率は、過去半世紀にわたり一貫して上昇トレンドを続けてきた。1970年代には約30%に過ぎなかったこの比率は、その後、「景気が悪化すると急上昇し、景気が好転しても低下しない」という非対称なパターンを繰り返して、2012年には100%を超えるに至る。

 コロナによる急上昇は、こうした過去のパターンをそのまま延長したものに、多少のプラスアルファを追加した程度に過ぎないとすら言える。

 債務をどんどん増やしてきたのは政府だけではない。G20諸国の政府と民間を合わせた債務全体の対GDP比率も、長期的に上昇傾向をたどっており、2019年には239%と過去最高に達した。そして2020年は、前述の通り政府が債務を大幅に増やしているほか、民間企業もコロナ対応で借り入れを増やしている。

 政府・民間の債務全体も史上最高を大きく更新することは、確実な情勢である。

 こうした趨勢的な債務増大は、なぜ起こっているのであろうか。中央銀行マネーのばらまきや財政規律の緩みのせいだ、という答えが返ってきそうだが、それは違うと思う。むしろ注目すべきは、所得や資産の格差拡大である。

 トマ・ピケティが『二十一世紀の資本』で明らかにしたように、1980年前後にそれまでの格差縮小のトレンドが反転し、過去約40年間は富の集中が進む歴史であった。それと表裏一体の現象として、前述した債務増大の歴史はある。

 これは、少し考えてみれば当たり前のことである。使い切れないほどの富を得た者たちは、余剰となった資産を運用しなければならない。いかなる金融資産も、それが最終的に行き着く先では、必ず誰かが債務として受け容れなければならない。運用しなければならない余剰資産が増え続ける限り、債務の趨勢的な増加は避けようがない。

 プリンストン大学ミアン教授らの研究によれば、米国では富裕層の過剰貯蓄が、富裕層以外の家計の債務増大につながってきたとされる。富裕層以外の家計は、中間層も含めて賃金が伸び悩み、債務への依存を強めざるをえなかったという面もあるのだろう。
 
 そして両者をつないできたのが金融業である。米国で80年代以降、金融業が急速に発展した背景には、リーマンショック前までの行きすぎた規制緩和の影響もあったが、偏在する資産を誰かの債務に変換するニーズの増大がその根源にあったと考えるのが自然だ。

 日本には米国のような大富豪は少ないが、それでも金融資産の保有状況にかなりのばらつきがあることは知られている。ただ、日本の場合は、そこで生まれた余剰金融資産を、他の家計や企業の借り入れでは吸収しきれない状態が続いた。その結果、政府が債務を増大させるほかはなかったのである。

 日本の政府債務の対GDP比率は、主要国の中で群を抜く高さである。しかし、もし政府が野放図なばらまきのために国債を無理やり発行してきたのだとすれば、企業や家計の資金調達と衝突して金利上昇を引き起こしていたはずである。いわゆるクラウディング・アウトと言われる現象だ。

 誰もが知る通り、実際に起こったことはその真逆であり、30年近くにわたる長期金利の低下である。ハイペースで増え続ける民間の余剰資金に、政府がいくら借金を重ねても追いつけなかった、というのが事の真相である。

 政府は過去に幾度か財政再建を試み、そのたびに失敗してきた。それは、その時の政治家がだらしなかったからではなく、民間資産の増加圧力のすさまじさの前になす術がなかったのである。問題の根本は債務の側ではなくて、資産の側にある。

 前出のミアン教授によれば、米国でも近年は、家計の債務があまり増えなくなり、その分、余剰資金が政府債務に回っているという。コロナ対応で米国の政府債務も一気に高まることになるが、米国でも起きているのはクラウディング・アウトではなく、未曽有の低水準への長期金利の低下である。少なくともこの面では、米国の「日本化」がだいぶ進んだ。

 富の偏在の是正策としてトマ・ピケティが提案したのは、資産への課税である。資産課税には、対象資産を把握することや資産の海外流出を防ぐことが難しいという問題があり、現実的な選択肢にはなっていない。しかし、貯蓄率の高い富裕層へと富がさらに集まっていくことは、経済全体としての消費活動にもマイナスである。

 個人消費が伸びなければ、それが過半を占めるGDP全体も伸びず、中長期的な経済成長率のさらなる低下を招くおそれもある。

 仮に資産課税が難しくても、税制、社会保障制度、労働市場、教育などの分野で、所得や資産の格差是正に資する方向での改革を進めることが強く求められる。それは社会公正の観点からだけでなく、潜在成長率の底上げや、金融資産・債務の並列的な膨張への歯止めという視点からも、不可欠な取り組みであると考えられる。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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