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20年にわたる成長戦略でも潜在成長率は低下

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【門間前日銀理事の経済診断(37)】低金利時代、重要なのは財政政策

公開日: 2020/12/02 (マーケット)

【門間前日銀理事の経済診断(37)】低金利時代、重要なのは財政政策

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

 潜在成長率とは、景気の良い時と悪い時を均して、中長期的に実現できる平均的な経済成長率のことである。ランナーで言えば、短距離ではなく長距離を走り切れるスピードに相当する。

 正確な潜在成長率は誰にもわからず、推計で求めるしかない。代表的なものとして、日銀の推計と内閣府の推計がある。直近の推計値は日銀が0.1%、内閣府が0.7%である。両者にやや差はあるが、今後データが蓄積していくにしたがって、乖離は小さくなっていく可能性が高い。

 いずれにせよ両者とも、長期的には潜在成長率が低下傾向をたどってきたことを示している。日銀の推計を使うと、90年代初頭には約4%であった潜在成長率は、バブル崩壊からほどなく約1%まで一気に低下した。さらに、2010年代はゼロ%台半ばまで低下した。

 学術研究では潜在成長率を、①労働投入量の増加率、②資本投入量の増加率、③全要素生産性(Total Factor Productivity)の上昇率の3要因に分解するアプローチが一般的である。日銀や内閣府もそれに従って分析することが多い。ただ、この3要因への分解は結果の解釈をいたずらに難しくする面もあり、筆者はあまり好きではない。

 より単純に、①労働投入量の増加率、②労働生産性の上昇率、の2要因だけで、潜在成長率の長期低下傾向の本質は十分理解できる。

 日本の場合、①の労働投入量の増加率は、人口の減少・高齢化によって低下傾向をたどってきた。それに加えて、②の労働生産性の上昇率も低下傾向にあり、こちらは日本だけではなく多くの先進国に共通する現象である。

 不都合なのは、上記2要因とも政策によって改善に導くのが容易ではないことである。まず、一つ目の人口の減少・高齢化については、仮に今から出生率を上げることができたとしても、労働投入量にプラスの効果が出てくるまでに20年かかる。女性や高齢層の労働参加を高めることである程度の対応はできるが、それにはおのずと限度がある。

 結局、持続性のある形でより高い潜在成長率を実現するには、二つ目の要素、すなわち労働生産性の上昇率を高めるしかない。ところが、これは前述の通り他の先進国も直面している課題であり、どの国も良い方策を見つけられていない。

 一企業の場合であれば、デジタル化やイノベーションなどで労働生産性を引き上げられる。しかし経済全体についてはそう単純にはいかない。デジタル技術で世界を席巻する優良企業が多い米国でも、国全体の労働生産性の上昇率は、低いと言われる日本とほとんど変わらないのが現実だ。

 日本では、アベノミクスの成長戦略が不十分だったという指摘が多い。しかし、一言で成長戦略と言っても、具体的にどうすればマクロの生産性上昇率を高めることができるのか、専門家の間でも一致した意見があるわけではない。成長戦略に明快な答えは見つかっていないのである。

 そもそも成長戦略は、アベノミクスが初めてではない。その前の民主党政権も取り組んだし、2000年代前半の小泉政権時代は、「改革なくして成長なし」が5年連続で経済財政白書の副題に掲げられるほど、熱量があった。日本はかれこれ20年にわたり成長戦略に取り組んできたが、潜在成長率の低下傾向を止めることはできなかった。

 もちろん、何も行っていなければ、潜在成長率はもっと低下していた可能性はある。しかし、それならそれで今後の成長戦略についても、潜在成長率の低下を和らげられれば御の字というぐらいに謙虚に考えておく必要があり、それ以上の甘い期待は禁物である。

 コロナ禍から抜け出した後の日本経済は、コロナ禍自体の後遺症が残らないと仮定しても、もともとあった高齢化要因によって、潜在成長率がゼロ%近辺まで低下する可能性がある。その場合の不都合が二つある。

 第一に、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」は、成長率に関して今でも楽観的な前提を置いているが、それが一段と現実離れしていく。それをベースとした財政健全化の試算には何の意味もない。

 第二に、金融政策の有効性はますます低下する。一般に金融緩和の効果は、自然利子率よりも実際の金利を低くすることで得られると考えられている。潜在成長率が低下すれば、自然利子率はさらに低下する一方で、実際の金利は今以上には下げられない。金融政策が経済や物価を強める効果は、今後さらに期待できなくなっていくと考えられる。

 上記の二つの不都合を併せて考えると、難しくなるのは財政政策のあり方である。金融政策の力が落ちる以上、現在のコロナ禍への追加対応はもちろん、その先まで展望しても半永久的に、景気後退には財政政策で全面的に対応しなければならない。

 一方で、中長期的な財政再建の展望は、潜在成長率がほぼゼロという厳しい前提で議論しなければならない。ただ、民間需要の低成長や資金余剰が続くのであれば、超低金利も今後長く変わらないだろう。そうだとすれば、かなり高水準の政府債務でも持続可能ではないか、という視点も踏まえることが議論のバランスとして必要である。

 低成長・低インフレの時代に新たなパラダイムが求められるのは、金融政策ではなく財政政策である。
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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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