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2%物価目標の停止まで続く日銀の苦悩

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【門間前日銀理事の経済診断(41)】日本の現実に合わないグローバル・スタンダードに無理がある

公開日: 2021/04/02 (マーケット)

日銀本店=Reuters 日銀本店=Reuters

 日銀は3月19日、「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」を行った。技術的な修正はいろいろあったが、最大のポイントは、株価指数連動型の上場投資信託(ETF)に関する買入れ方針の変更である。日銀は従来、ETFを原則として年間6兆円ペース、上限12兆円ペースで買入れていたが、今後の買入れは必要な場合に限ることとした。

 自由経済の根幹である株式市場への中央銀行の介入は、本来よほどの緊急時でない限り適当でない。その意味で今回の変更は方向性としては正しい。しかし、日銀はETF買入れをやめたわけではないし、それ以外にもマイナス金利や長期金利コントロールなど、副作用もあり得る異例の政策を続行中である。

 最大の問題は、こうした「異次元緩和」に出口が全く見えないことである。異次元緩和が目指している2%物価目標が非現実的だからである。日銀は今月末、2023年度までの経済・物価見通しを公表する予定だが、そこでも2%インフレに届かない見通しが示されるだろう。

 結局、当初「2年程度で」と言っていた目標の達成は、10年経ってもできないことになる。しかも、達成できるかどうかが議論になるようなレベルではなく、箸にも棒にもかからないままで10年が過ぎていくのである。

 なぜ日本でインフレが2%まで上がらないのか、その正確な理由はよくわかっていない。ただ、日銀自身も分析している通り、物価が上がりにくいことを前提とした人々の考え方や慣行が、日本の社会に根付いていることは確かである。その転換に時間がかかると言うのが日銀の判断だが、より正確に言えば、かなりの時間をかけても転換しないかもしれない。

 日本の基調的なインフレ率は過去25年以上、1%に達したこともほとんどなかった。その25年の間には、戦後最長の景気拡大(2002~07年)や、戦後2番目の景気拡大(2012~18年)があった。とくにコロナ危機の直前は、バブル期以来の人手不足となっていた。それでも2%インフレがはるかかなたであったことを踏まえれば、この先25年も2%インフレになる状況は想像しにくい。

 これほど目標と現実の開きが大きい場合、目標か手段の少なくともいずれかが間違っていると考えるのが普通である。仮に目標の方には間違いがなく、2%インフレは日本経済に絶対必要だと言うのであれば、金融政策という手段しか持たない日銀にそれを任せきりにする政府は無責任である。2%物価目標を達成するために、巨額の財政支出など経済政策を総動員すべきである。

 ただ、筆者はそれがあるべき方向なのではなくて、2%物価目標の方に問題があると考える。そもそも日銀法に定められている日銀の責務は「物価の安定」である。日本経済には、当面のコロナ禍への対応やそこからの回復という課題はもちろん、少子高齢化、低成長、構造的な個人消費の弱さ、人的投資の不足など様々な問題がある。しかし、物価が「不安定」であることが日本経済の問題だと考える人は、仮にいてもごく少数だろう。

 つまり、「物価の安定」という本来の意味での日銀の責務は、すでに概ね果たされているのである。その「物価の安定」をあえて狭く解釈し、日本の現実に合わない2%インフレのためにマイナス金利や長期金利コントロールを延々と続けるのは、政策としてのバランスを失しているように思われる。

 それでも日銀が2%物価目標を掲げ続ける最大の理由は、それがグローバル・スタンダードだからである。実際、日銀が「点検」の付属文書として公表した52ページからなる「背景説明」は、2%物価目標が適切でありグローバル・スタンダードであるとの説明から始まっている。

 すなわち、「インフレは2%程度が望ましく、かつそれは金融政策で達成できる」という政策思想が、経済学界を中心にグローバルに形成されており、それを多くの海外中央銀行が実践しているのである。その政策思想が日本の現実と折り合わない点は、日銀にとっては不幸であった。

 近年の中央銀行には説明責任が強く求められる。目標を10年間達成できない理由を説明するのも大変だが、グローバル・スタンダードに従わない理由を説明するのはそれ以上に大変な面がある。

 本当は日本発で新たな政策思想を構築し、今のグローバル・スタンダードがすべてではないことを世界に発信できれば一番良いが、日本のアカデミズムからそのようなエネルギーが沸き上がる気配はない。日本の現実がグローバル・スタンダートに合うように変化する可能性も低い。

 だとすれば結局、海外でも低インフレ環境が当たり前になって、グローバルな政策思想そのものが変化するのを待つしかない。ただ、これも仮に起こるとしてもだいぶ先のことになりそうだ。

 こうした袋小路から脱する良い戦略は今のところ見当たらない。だからこそ日銀は3月の「点検」で、異次元緩和を長く続けても致命的な問題が起きない工夫をするしかなかった。しかし、ETF買入れやマイナス金利を出口なく続けること自体に、問題が残っていないとは思えない。いずれ次の「点検」もあるとみておくべきだろう。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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