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手厚いセーフティネットが賃上げ圧力に

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【門間前日銀理事の経済診断(44)】賃上げなくして消費増なく、消費増なくして経済成長なし

公開日: 2021/07/02 (政治, マーケット)

Reuters Reuters

 日本のワクチン接種は他の先進国に出遅れたが、最近はスピードが速い。順調に行けば、今年中に感染拡大のリスクがかなり低下し、経済が正常に近づくことも夢ではない。

 今年中なのか来年になるのかまだ不確実性は大きいが、いずれ今の米国のように、サービス業の活動が大幅に自由になる局面は日本にも来る。その時は日本でも、旅行・会食・イベント関連の需要が相当盛り上がりを見せるのではないか。

 2年我慢した反動の「リベンジ消費」を政府も「Go To」の再開で後押しし、個人消費はしばらく大いに活気づくだろう。

 問題はその後である。コロナ明けのお祭り騒ぎが一段落した後は、また元の「静かな日本経済」が戻ってくるに違いない。政府もコロナ後を見据えて、デジタル、グリーンなどの新たな成長戦略を打ち出してはいる。

 デジタルもグリーンも今後の社会に不可欠であり、それを政策的に推進することには意義がある。しかし、日本経済の成長を高めるためならポイントはそこではない。

 日本経済の最大の弱点は、企業の稼ぐ力が欠けていることではなく、個人消費が増えないことにある。コロナ前、アベノミクス景気の下で企業の業績や株価は大幅に上昇したが、個人消費は2013年度からの6年間、年平均0.3%のペースでしか増えなかった。ほぼゼロ成長である。その理由は複合的だが、根本的な原因は賃金の弱さにある。

 「賃金を上げるには生産性を高める必要がある」とよく言われる。しかし、それはあまり意味のある議論ではない。第一に、個別企業ならともかく、経済全体の生産性については、それを高める確かな方法が見つかっていない。

 つまり、「賃金を上げるには生産性を高めるべき」と言ってみても、「どうすれば賃金を上げられるか」という難問が、「どうすれば生産性を高められるか」という別の難問に振り替わるだけである。

 第二に、より重要な点だが、企業から見た生産性、すなわち企業収益が高まったとしても、それが労働者にトリクルダウンしないことこそ問題の根幹なのである。

 法人企業統計によると、先述したアベノミクスの6年間に、企業の経常利益は7割以上増加し、株主への配当は約9割増えた。しかし同じ時期に、人件費は6%しか増えていない。年当たりにすればわずか1%増である。

 企業の稼ぐ力が強まり株主への還元も大幅に増えたことには、コーポレート・ガバナンスの強化も寄与しているだろう。コーポレート・ガバナンスの強化自体は正しい流れである。

 しかし、株主の力が強まれば、その対極にある労働者の「交渉力」は相対的に弱まる。企業がいくら稼いでも労働者への恩恵が乏しいという現状を変えるには、労働者の「交渉力」をいかに高めるかが鍵になる。

 それは決して簡単なことではないが、コロナ禍からの急回復でインフレさえ懸念される今の米国に、考え方のヒントがある。米国の物価上昇には複数の要因が働いているが、その一つは飲食・娯楽など対人サービス業における賃金の上昇である。

 その賃金上昇の背景には、コロナ禍で失職した労働者がなかなか仕事に戻ろうとしないという事情がある。失業者に対して割り増しの失業保険が払われているため、失業したままの方が得だという人が少なくないのである。

 二度にわたって家計に払われた一律の給付金により、とりあえずは貯蓄が増えたという若干の余裕もある。働きに出ればコロナ感染のリスクもまだある中で、低賃金なら今あえて働く必要はないと考える人が多い状況である。

 つまり、「働かなくてもよい」という選択肢の存在が、労働者の事実上の「交渉力」を高め、それが賃金の上昇をもたらしている面があるのだと言える。もちろん、米国のこの状態は一時的なものである。

 失業保険の割り増し分は全米で9月には停止されるし、約半数の州は前倒しで既に停止しつつある。働かざるをえない人々が増えれば、再び労働者の交渉力が低下し、そこから先は賃金が上がりにくくなるだろう。

 以上のヒントから言えるのは、一時的にではなく構造的に賃金が上がりやすい社会にするには、米国で起きたのと類似のことを制度的に恒久化すればよいということである。例えば、失業者や求職者が金額も期間も十分なセーフティネットを享受できる仕組みになっていれば、人々は時間をかけて条件面の良い仕事を選びやすくなるはずである。

 今の仕事からもっと賃金の高い仕事へ移りたいという人々には、ある程度まとまった期間、生活の心配をせずに新たなスキルの習得に専念できる機会を与えることが有効だと考えられる。

 「低賃金なら働かなくてもよい」「しばらくはスキルの習得に専念できる」といった選択肢の存在が、働く人々の事実上の交渉力を高めることになる。もちろん財政資金の投入が必要となる話ではある。

 しかし、賃金の上昇なくして個人消費の増加はなく、個人消費の増加なくして経済成長はない。デジタル化の支援も悪いとは言わないが、政府の成長戦略には賃金上昇を支える視点がもっと強くあってよい。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。
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