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日銀も気候変動対策にお付き合い 

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【門間前日銀理事の経済診断(45)】中銀関与の効果は薄いが、大義はある

公開日: 2021/08/03 (マーケット)

【門間前日銀理事の経済診断(45)】中銀関与の効果は薄いが、大義はある

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

 日銀は7月16日、気候変動関連分野での金融機関の投融資を支援する資金供給の骨子案を公表した。金融機関がグリーンボンドなどに投融資する際に、日銀がその金融機関に金利ゼロで原資を貸し出すというものである。

  その前週には欧州中央銀行(ECB)が、気候変動対応に関する包括的な行動計画を発表している。具体的には、①マクロモデルや統計への気候変動の取り込み、②資産買い入れのグリーンシフト、③情報開示が基準に満たない債券の買い入れ停止、④気候変動関連のストレステストの実施・定例化、などが含まれている。

  このように金融政策が気候変動の領域に踏み込むことに対しては、批判もある。第一に「資源配分の変更を伴う気候変動対応は政府に任せ、金融政策は物価の安定に徹するべき」という批判である。第二に「金融政策ではたいした効果がない」という批判である。

  第一の批判、気候変動対応は金融政策の範囲外ではないか、という点から考えてみたい。日銀やECB自身は、気候変動は経済活動に大きな影響を与えるので、長期的には物価の安定にも関連するという点を強調している。

 ただ、このロジックは今一つ説得性に欠ける。金融政策は本来、何らかのショックが物価に加わる場合に、総需要への働きかけを通じてそのショックを相殺するよう努める政策である。

 例えば、グローバル化やデジタル化がもたらす物価下落圧力に対しては、金融緩和で総需要を刺激して物価上昇圧力を作り出し、それによって当初の物価下落圧力を打ち消すよう努めるのである。

  グローバル化やデジタル化そのものに働きかける、例えばそれらを抑制する企業を金融的に支援する政策など、どの中央銀行も考えもしないはずだ。気候変動についてのみ、気候変動自体に働きかけようとするのは、物価の安定に資するという考え方では説明できない。

  それでも筆者は、中央銀行が可能な範囲で気候変動対応に貢献する姿勢を示すのは、望ましいことだと考える。その最終目的が物価の安定である必要もない。物価の安定と矛盾さえしなければよいのである。

  気候変動は21世紀の人類が直面する重大危機であり、日本も宣言した2050年のカーボンニュートラルは、想像を絶するほど野心的な課題である。

 国民が英知と努力を結集しなければならない課題に対して、中央銀行だけが無関心であり続けることの方がおかしい。物価の安定と矛盾しない限り、中央銀行が気候変動への関与を強めるのはあるべき方向性だと思う。

  ただし第二の批判、気候変動に対して金融政策の効果はほとんど期待できない、というのは基本的に正しい。第一の批判に十分耐えうるよう資源配分への中立性を保とうとすれば、中央銀行が気候変動に対してとりうる政策手段は、所詮限られたものとならざるをえないからである。

  日銀が今回打ち出した資金供給制度の骨子案も、資源配分への中立性を重視して、かなり慎重なものになっている。第一に、日銀自身がグリーンボンドなどを積極的に買うわけではなく、最終的な資金の行き先を決めるのはあくまで民間の金融機関である。

  第二に、その民間の金融機関に対して日銀はバックファイナンスを供与するわけだが、ファイナンス条件はさほど優遇度が高いものではない。事前の市場予想では、インセンティブとして日銀当座預金にプラス金利が付されるとの予想が優勢だったが、実際にはそういうインセンティブはつかない骨子案となった。

  第三に、日銀の資金供給規模は少なくとも短期間では大きな金額になりそうもない。対象となる投融資として日銀が例示した中では、グリーンボンドの市場規模が最も大きい。

 しかしそのグリーンボンドでも、環境省の集計によれば2020年の発行額は1兆円強に過ぎない。しかも、その中には外貨建てのものや機関投資家向けのものなども含まれている。グリーン関連の金融市場が今後拡大していくのは間違いないと思われるが、当面は日銀のプレゼンスは小さそうだ。

 このように、日銀が動ける範囲で動いても気候変動への影響は極めて限られる。しかし、効果がないから関与すべきではないということにはならない。効果は限定的でも中央銀行が前向きの姿勢を見せることと、何もしないこととの間には、それなりに大きな違いがある。

 効果がないという点だけで言うなら、肝心の2%物価目標に向けて延々と続けられている異次元の金融緩和も、それほど効果があるようには見えない。それでも、デフレ脱却を目指し政府との連携姿勢を強く示したという点で、2%物価目標そのものに一定の意味はあったのだと思う。

  2%物価目標とカーボンニュートラルとの間には違いもある。2%物価目標は達成できなくても誰もそれほど困らないが、2050年カーボンニュートラル、さらにその途中段階としての2030年目標は、人類の未来を左右しかねない必達の目標である。

 もちろん、そこで求められるのが中央銀行ではなく、政府の覚悟であることは言うまでもない。
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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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