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プライマリーバランスにこだわるな

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【門間前日銀理事の経済診断(46)】低成長・低インフレの現実見据えた 議論を

公開日: 2021/09/01 (マーケット)

【門間前日銀理事の経済診断(46)】低成長・低インフレの現実見据えた 議論を

 内閣府は毎年、年初と夏の2回「中長期の経済財政に関する試算」を公表している。成長実現ケースとベースラインケースの二つについて、先行き10年程度にわたる経済、物価、財政のシナリオを描き、経済財政諮問会議における審議の参考として提出している。しかし、この試算には大きな問題がある。

 第一に、成長実現ケースが浮世離れしている。本年7月に作成された最新の試算によれば、成長実現ケースにおいて、中長期的に実質2%、名目3%の経済成長が前提とされている。この前提は過去10年以上使われているものだが、現実とかけ離れていることは既に証明済みである。

 2012年末から71か月間続いた「アベノミクス景気」の間、実質成長率は平均1.2%であった。景気拡張期というのは「景気が良い時」である。景気の良い時でさえ1.2%なのだから、不況期もありうる中長期の平均で実質2%とは、あまりに現実を無視した前提である。

 この成長実現ケースは、あくまでデジタル、グリーンなど成長戦略の努力目標という面はあろう。しかし、努力目標だとしても高すぎる。アベノミクス景気の間も、いわゆる「第三の矢」として様々な成長戦略が打たれてきた。そうした政策努力の結果も込みで先ほどの1.2%成長だったのである。この事実は謙虚に受け止めなければならない。

 ちなみに、中長期の平均的な実質成長率、つまり日本の経済成長の実力のことを、潜在成長率と言う。日銀の推計によれば、それは2010年代の平均で0.5%程度であった。2020年代は人口の高齢化がさらに進む。今後の10年は2010年代並みの潜在成長率を維持するだけでも、容易ではないはずである。

 第二に、成長実現ケースだけならまだしも、もう一つのベースラインケースですら、楽観的なものになっている。ベースラインケースの実質成長率は、中長期的に1%程度と前提されている。成長実現ケースの半分の成長率なので、一見保守的な前提に見えるかもしれない。

 しかし、潜在成長率のことを思い出してほしい。1%成長というのは2010年代の潜在成長率のおよそ2倍に当たる。また、1%というのはアベノミクス景気の1.2%より若干低いだけである。アベノミクス景気の長さは戦後最長に匹敵するがそれでも6年で終わった。アベノミクス景気のような状態が10年続かないと、「中長期で1%成長」はクリアできないのである。

 一般に、何らかの将来シナリオを二つ示す場合には、仮に一つが楽観的なシナリオであっても、もう一つは慎重なシナリオにしてバランスをとるのが常識である。ところが内閣府の試算の場合、示されている二つは、超楽観的なシナリオと楽観的なシナリオである。それをもとにして建設的な議論ができるようには思えない。

 さて、この中長期試算は、その正式名称が「中長期の経済財政に関する試算」であることからもわかるように、以上の二つのケースの経済成長率と整合的な財政の姿を試算している。

 それによると、成長実現ケースでは、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が2027年度に黒字化するという試算になっている。ベースラインケースの場合は、2030年度まで展望してもプライマリーバランスの黒字化は実現しない。

 ところが、成長実現ケースにおいては、実質成長率だけでなく物価についても都合の良い前提が置かれている。2025年度以降、消費者物価上昇率が前年比2%で推移するというのである。

 2%というのは日銀の物価目標である。そして、その実現が極めて困難であることは、民間エコノミストの間では常識になっている。過去の実績を見ても、日本の消費者物価は25年以上にわたり、1%に達したことすらほとんどない。

 成長率と物価の両方に非現実的な前提を置いて、プライマリーバランスの黒字化が実現すると言われても、そこに何らかの意味を見出すことはできない。

 この中長期試算を参考資料として使っている経済財政諮問会議での議論にも問題がある。7月の会合の議事要旨によれば、成長実現ケースの実現に向けてグリーンやデジタルなどの成長戦略をしっかり進めることが必要であり、財政自体についても歳入・歳出改革を進めることが重要だ、という程度の議論しかなされていない。

 野心的な目標に向かって頑張ろうと気合いを入れるのが悪いとは言わないが、より現実的な試算をし直すべきだという批判的な意見もなく、政策論議としては甘さが目立つ。

 グリーンやデジタルを進めるのはもちろん重要なことであるが、それを進めれば実質2%成長や2%物価目標が達成できるという関係性について、説得的なエビデンスはどこにもない。現実を直視した議論が必要である。

 一方で、プライマリーバランスの黒字化を至上命題としている点も、本当にそれでよいのだろうか。厳しい緊縮をせずにプライマリーバランスを黒字化するには、高い経済成長がどうしても必要なので、高い経済成長が実現可能という話にしておきたくなるのである。

 むしろ、低成長・低インフレ・低金利の長期化という一番ありそうなシナリオの場合に、そもそもプライマリーバランスの黒字化は正しい政策なのだろうか。そういう本質的な議論を期待したい。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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