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日本でもう「デフレ宣言」が出ない理由

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【門間前日銀理事の経済診断(47)】過去の宣言は金融緩和の催促、今後は催促しようがない

公開日: 2021/10/04 (マーケット)

日本銀行=Guwashi999-Attribution 日本銀行=Guwashi999-Attribution

 直近8月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比はちょうどゼロであった。昨年4月から17か月連続でゼロまたはマイナスであり、ほぼ1年半にわたり物価は一度もプラスになっていない。過去このようなことが起きたのは、2012年以前のいわゆるデフレ期においてであり、2013年に始まった異次元緩和のもとでは初めてのことである。

 デフレ脱却に関する判断において、政府はGDPデフレーターも重視している。ところがそれも直近4~6月の前年比は-1.1%と、2011年以来のマイナス幅になっている。今年度は、名目成長率が実質成長率を下回るいわゆる「名実逆転」がほぼ確実だろう。

 日本は再びデフレに陥ったのであろうか。結論から言えばそういうことではない。

 実は、原燃料などのコストの上昇が、着実に消費者物価に波及しつつある。今のところそれがよく見えないのは、コスト上昇に伴う一部の物価上昇が、携帯通信料の大幅なマイナスで相殺されているためである。今後はコスト上昇要因の方が勝っていくので、消費者物価の前年比はほどなくプラスに転じるだろう。

 もちろん、こうしたコストプッシュ型の物価上昇は、望ましいものではない。コロナ禍の影響がまだしばらく残るとみられる中、こうした物価の上昇は消費者マインドの回復を遅らせる可能性がある。物価は上がるのが望ましく、下がるのは望ましくない、という理解はそもそも単純すぎるのである。

 それはさておき、筆者が興味深く思うのは、コストプッシュ面を除けば物価の基調が極めて弱いにもかかわらず、最近はデフレを心配する声がほとんど聞かれないことである。それは正しいことではあるのだが、景気回復が道半ばで物価も弱いのだから、かつてなら「デフレ懸念」がもっと話題になってもおかしくはない。

 消費者物価の前年比は今後プラスに転じていくであろうし、緊急事態宣言も解除されて経済活動の活発化が期待されるのだから、現状をデフレと見るのはいずれにせよ適切ではない。ただ、さらに将来を見据えた時、仮に物価の下落がかなりの期間下落するような局面が再び日本に訪れたとしても、もはや以前のような「デフレ騒ぎ」は日本では起こらないと思う。

 日本で初の「デフレ宣言」が出されたのは2001年3月である。政府の月例経済報告において、「持続的な物価下落をデフレと定義すると、現在、日本経済は緩やかなデフレにある」という判断が示されたのである。なぜ政府は当時、わざわざデフレに独自の定義を与え、その時の情勢がそれに当たるという判断を示したのだろうか。「物価は緩やかに下落している」という情勢認識を、月例経済報告に淡々と記述するだけでも良かったはずだ。

 政府があえて「デフレ」という言葉を公式文書に入れた最大の狙いは、日銀に金融緩和の強化を求めることにあったとみられる。日銀法で「物価の安定」は日銀の責務と決まっている。問題は「物価の安定」をどう定義するかである。

 手っ取り早く言えば「インフレでもデフレでもない状況」のことなのだが、すると次は、インフレやデフレをどう定義するのかが問題になる。2001年当時においても、デフレを巡る考え方は様々であった。それを政府は、物価が持続的に下落してさえいれば、その背景はどうであれ「デフレ」だ、と議論を単純化したのである。

 さらに重要な点として、「物価が持続的に下落」しているかどうかも多少の判断は要する概念なので、デフレなのかどうかは結局、政府の総合判断によることになった。以来この国では、政府がデフレと言えばデフレという慣行が定着し、月例経済報告における政府のデフレを巡る書きぶりが注目されるようになった。

 デフレであるということは「物価の安定」が達成されていないということなので、日銀がその責務を果たしていないということになる。その意味で2001年3月の月例経済報告は、政府が毎月、日銀の仕事に「合否判定」を出し、だめならさらなる奮起を促す仕組みを作ったに等しい。日本の金融政策史上、重要な転換点であったように思う。

 その後、2006年7月には月例経済報告から「デフレ」の文字がいったん消えるが、2009年11月に復活する。これが2度目のデフレ宣言と言われるものである。そしてそれも、2013年12月に消えて今日に至っている。

 したがって、仮に将来、月例経済報告がまた「デフレ」の判断を示すことがあるとすれば、それは3度目のデフレ宣言ということになる。しかし、それは、1度目、2度目とは性格がかなり異なるものになる。日銀は既に限界まで金融緩和の手を尽くしており、これ以上の金融緩和は百害あって一利なしである。

 政府の立場で考えれば、デフレ宣言を出したところで今以上の日銀のサポートは期待できないのだから、出すことのメリットはない。むしろ、3度目のデフレ宣言を出せば、それは単にアベノミクス以来の自民党経済政策の行き詰まりを示すだけのものになる。政権交代でもなければ、日本で「デフレ宣言」が出ることはもうないのではないか。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。
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