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コロナによるインフレ 鎮静化に米景気後退は避けられない

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【門間前日銀理事の経済診断(56)】賃金インフレ抑制にはマイナス2%成長が必要

公開日: 2022/07/04 (マーケット)

パウエルFRB議長(2022年6月16日会見)=Reuters パウエルFRB議長(2022年6月16日会見)=Reuters

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

 コロナ禍の最悪期から、米国経済はV字回復を果たした。しかし、それにはインフレという代償が伴った。米国の消費者物価上昇率は、3月以降8%台で推移している。40年ぶりの高インフレである。

 このインフレに対応するため、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は、利上げのペースを加速している。3月まで概ねゼロだった政策金利は、3月に0.25%、5月に0.5%、6月に0.75%の幅で引き上げられ、累計の利上げ幅は1.5%となった。7月も0.5%ないし0.75%の利上げが有力視されているほか、その後もしばらく利上げが続く見通しである。

 金融市場では、こうした利上げが景気後退をもたらすのではないか、という懸念が強まっている。住宅ローン金利の上昇から、住宅の販売や着工は既に下落に転じている。株、高利回り債、暗号資産などのリスク資産も、明確な調整局面に入ってきた。

 一方、家計のバランスシートが健全であることや、足元の内需が引き続き堅調であることから、景気後退にはならないという見方も根強い。しかしやはり、景気後退は避けられないとみるべきだろう。経済がここまで過熱してしまうと、もはやFRBに金利引き上げをやめる選択肢はなく、景気後退はすでに必要悪になってしまったと言える。

 米国でも日本と同様、「物価の安定」の定義は安定的な2%インフレである。それを大幅に上回るインフレでも、それが1~2年で収まると確実に見通せるなら問題ない。しかし、高インフレを放置すればそれが中長期的に定着してしまうリスクがある。

 インフレは様々な要因によって引き起こされる。今の米国のインフレにも、国際商品市況の高騰、供給面のボトルネック、国内需要の強さ、賃金の上昇など多くの要因が複合的に作用している。

 このうち、中長期的なインフレとの関連が非常に強いのは、賃金の動向である。賃金の高い伸びが続くと、それがコスト圧力となって物価全般を押し上げ、それで苦しくなった労働者がまた高い賃上げを要求する、という無限ループが働いてしまうからである。

 米国の賃金の上昇率は、このところ前年比5%台で推移している。しかし、賃金の上昇率が3%台に低下しない限り、中長期的な2%インフレと整合的にはならない。そこまで賃金の上昇率を抑制するには、歴史的なひっ迫となっている今の労働需給を、バランスさせなければならない。

 FRBの幹部がしばしば言及するとおり、求人数の失業者数に対する比率は1.9倍の高さに達している。これは異常な数字である。コロナ前、完全雇用が達成されていた局面でも、この比率は1.2倍程度であった。今の1.9倍をせめて1.2倍程度に戻さない限り、労働需給はバランスせず賃金インフレは止まらない。

 そのためには求人数、すなわち労働需要を400万人以上減らす必要がある。これは全米雇用者数の3%弱に当たる。生産性を引き上げればその分労働需要は減るが、米国の生産性上昇率は1%程度である。残る2%は経済活動の抑制によらざるをえない。

 つまり、労働市場がここまで過熱してしまった米国には、「マイナス2%成長」ぐらいの景気後退が、冷却水として必要なのである。数か月前、FRBのパウエル議長は、景気後退の回避とインフレ抑制の両立に自信を見せていた。そのパウエル議長も6月下旬の議会公聴会では、「軟着陸の実現はより困難なものになっている」と認めざるをえなかった。

 FRBの幹部が、ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策など、FRBにはコントロールできない外部要因を強調することも多くなった。景気後退に陥った時、「そのすべてがFRBのせいではない」と言えるように、今から予防線を張っているようにも聞こえる。

 バブルは一度膨らんでしまったら、その崩壊を防ぐことは難しい。それと同じように、経済がいったん過熱してしまったら、景気後退という冷却水なくして持続可能な状態に戻ることは難しい。

 だとすれば、そもそもここまで景気を過熱させてしまったところに、FRBの失敗があったとも言える。FRBの法的責務のひとつは「物価の安定」であるので、高インフレを許したのはFRBの政策ミスだったと批判されても仕方がない。

 それでも、今回のインフレに、FRBの力が及ばない様々な要因が作用していることは、FRBが主張する通りである。日本ですら消費者物価の上昇率は2%を超えてきたが、これは日銀の異次元緩和が9年経って突然効き始めたからではない。コロナ禍やウクライナ危機による供給制約が、世界的なインフレ圧力を作り出したことは、紛れもない事実である。

 コロナ禍が各国を直撃した時、最も心配されたのは人々の暮らしであった。一時はデフレのリスクすら懸念されていた。そうした下方リスクを強く意識して発動された金融政策に対し、やりすぎだったと後から批判することはたやすい。

 しかし、コロナ禍の金融政策が、経済の下振れ阻止に重点を置いて行われてきたことには、一定の合理性があった。今後、インフレを抑え込む過程で景気後退をどの程度緩やかなものにとどめられるか、FRBの本当の手腕が試されるのはここからである。
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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。
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