15日の米国株の下げは、火事だという叫び声に出口へと殺到した映画館の観客のようなものだ。9月の米小売り売上高の不調は、株売りのきっかけにすぎない。ニューヨークダウの下げが一時、400ドルを超えた株安。キーワードは、「溝」と「感染リスク」である。
何よりもこの10月で終わる米金融の量的緩和(QE3)。来年にはイエレン議長の率いる米連邦準備理事会(FRB)はゼロ金利を解除するとみられている。なのに、直前まで市場参加者はタカをくくっていた。金融関係者の慢心を映し直前のNYダウは最高値圏に。その慢心が市場自体によって肘鉄を食ったのだ。
当局と市場参加者の溝ばかりでない。当局間の溝も目立つ。極め付きは米欧、とりわけ米国vsドイツだ。ユーロ圏の経済はとりわけ不調で、デフレ懸念さえ高まっている。それなのにドイツ主導の財政再建路線が続き、欧州中央銀行(ECB)の金融緩和も中途半端だ。ここでもドイツがブレーキを踏んでいる。
先にワシントンで開いた20カ国・地域(G20)財務省・中央銀行総裁会議でも、米国のルー財務長官は不満を表明したものの、ドイツがすぐに動く気配はない。市場が動揺するなか、主要国は財政・金融政策の調整を迫られようが、その際に米独の対立が表面化すまいか。
ユーロ圏の景気失速は欧州向け輸出の落ち込みを通じて、中国など新興アジア諸国の景気の下押し材料ともなる。中国経済への依存度を高めている韓国が14日に利下げに踏み切り、政策金利を過去最低にしたのは象徴的だ。そして一連の世界経済の下押しは、米国へと跳ね返ってくる。
リベリア出身者からのエボラ熱の感染が連日、米国のメディアで大騒ぎとなっているが、いまグローバルな経済とマーケットで起きているのは、リスクのコンテイジョン(感染)なのだ。こうした感染を食い止めるには、いうまでもなく各国当局が協調行動をとる必要がある。
米国は緩和縮小の時期を見直し、欧州は財政・金融面で景気を下支えする。日本も追加緩和に踏み切るとともに、消費再増税についてもいったん先送りを考える。対応策のメニューはそんなところだろう。
だが、景気シナリオを一から見直すのに慎重なためだろうか。当局から切迫感が伝わってこない。溝の原因は当局へと移りつつあるようだ。乱高下する各国の株価にもまして、急低下している米欧とりわけドイツの長期金利は、市場から当局に向けたシグナルのようにみえる。