前年比6.9%増。どうせウソでも、もう少し本当っぽく、と突っ込みたくなる。経済変調に世界が目を凝らす中国の7-9月期のGDP(国内総生産)統計だ。CNNで専門家が、算出過程が「ブラックボックス」で、実際の成長率は4.5%程度、とコメントしていた。
現首相の名を冠した「李克強指数」が知られる。8年前、遼寧省書記だった氏が米国大使に、自分は中国のGDPを信用せず、①電力消費量②鉄道貨物輸送量③銀行融資高を景気判断の目安にしている、と語ったという。
この3数値を「指数」化し、公表している外国機関がある。同指数に従えば、中国経済は目下、ハードランディング状態だ。
製造業中心経済を前提にした同指数は時代遅れで、サービス産業の比重が増した今日、映画チケット売上、携帯使用料、航空旅客数、アリババ(ネット通販大手)売上などが、実態をよく映す、との見方もある。
ともかく、輸出入の急減などから見て、中国政府が目指す「新常態」の目安、7%成長に近すぎる6.9は「作られた数字」だろう。
日本も、隣国を笑えない。経済財政諮問会議の席上、麻生財務相がGDP統計の基礎になる統計の精度を高めよ、と提案した。
特に消費で、家計調査(総務省統計)を取り上げ、販売側統計とギャップがあり、調査対象が高齢者世帯などに偏っている、と指摘した。また急拡大するネット通販の消費統計への取り込みも求めた。
財政当局なりの思惑もあろうが、問題提起の中身は真っ当だ。家計調査は、サンプル世帯が家計簿をつけねばならず、有り体に言えば、締まり屋家計に偏りがちで、実勢より低く出る、という指摘は前からある。
ネットと言えば、安倍首相の指示で携帯使用料引き下げが検討されている。民間企業の価格への政府介はお門違い、という正論は脇に置くと、家計に占めるネット化・情報化コスト増加が背景にあるのは間違いない。
一方、消費者のベネフィット(便益)はどうか。例えば各種無料アプリ。スマホで無料ゲームに熱中する人は多い。またコピーのしやすさから、有料のはずの楽曲や、動画などをこっそり、という人もいる。これらはGDPに反映されない。
ネット化社会は「タダ」が大手を振る社会という専門家もいる。とすれば、GDPと生活実感の乖離は拡大の一途かもしれない。GDPを尺度に世界経済の「セキュラー・スタグネーション(長期停滞)」が心配されているが、もしかしたら、ネット化要因も含まれるかもしれない。
GDP、なぜ実態と乖離する? |
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中国は製造業が中心、日本では対象が高齢者世帯に偏る。ネット時代、GDPに生活実感が反映されていない
公開日:
(マーケット)
Reuters
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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