巨額の外貨返済控え、経済変調は深い |
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制裁にもしぶといロシア、プーチン支持は過去最高
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(マーケット)
Reuters
ロシア経済の変調が目立ち始めた。通貨ルーブルの為替相場が下げ足を速め、対ドル・レートは年初来約20%下落した。経済成長率見通しもたびたび引き下げられ、世銀によると今年は0.5%にとどまる。だが、その一方で、米欧諸国による経済制裁が実施されているにもかかわらず、今後、短期のうちに経済が危機的状況に陥る可能性は低く、しぶとさもみせている。
ルーブルの下落は年初来続いていたが7月以降加速がつき、現在は1㌦=42㍔前後と史上最安値水準にある。その原因の一つは米欧諸国が実施している経済制裁にある。ロシア最大の銀行であるズベルバンクなど主要銀行に対し米欧市場での期間30日以上の資金調達を禁止するという措置の影響が大きい。モスクワの銀行間市場で流動性不足の不安が高まり、借入コストが上昇、ルーブル安の圧力になっている。
米格付け会社ムーディーズによるとロシア企業は今後4年間に1120億㌦の対外債務のリファイナンスに直面する。その大半はドル建て。金融制裁の中でどう外貨を調達できるのか問題だ。
さらにここへ来て原油価格が下落していることも不安材料として浮上している。代表油種のWTIは先日、1㌭あたり80㌦を切った。天然ガス価格は石油価格に基本的に連動しており、原油と天然ガスはロシアの輸出の3分の2を占める外貨獲得源であり、国家財政の半分をまかなってくれる戦略物資である。
ルーブル安の背景には、ロシア経済が原油と天然ガスに大きく依存し、体質改善が進んでいないことへの不信感の存在も指摘できよう。
現在、ロシア議会では来年から2017年までの予算(ロシアの予算は3年間まとめて作成される)を審議中。今週、下院は第一読会を終了した。ここで想定されている原油価格は1㌭当たり100㌦。多くの専門家の予測では原油価格の100㌦への回復は難しいという。
だが、現在のところ、政府にもロシア銀行(中央銀行)にも悲愴感はあまりみられない。大きな要因は、外貨準備が4,500億㌦を超え、中国、日本に次いで世界第3位と潤沢であることを挙げられる。ルーブルのフリー・フォール(底なしの下落)を回避できるだけの介入資金はある。さらに政府は危機への備えとして「準備基金」を設け、そこに普段から石油、天然ガスの輸出収入の一部を使わずに貯め込んできた。これが使える。
ドル建の原油価格が下がってもルーブル安の下ではルーブルの収入が増えるという恩恵もある。アントン・シルアノフ財務相によると、ルーブルの対ドル・レートが1㍔下がると、国の歳入は1,800億~2,000億㍔増える。
またルーブル安、そしてロシアが発動している食料品などの輸入差し止めによって、農業などロシア国内の一部産業に輸入代替効果が出て生産が増えるという現象もみられる。
ウクライナ危機で西側諸国とロシアが対立、制裁合戦が繰り広げられた時には、ロシア経済は一気に深刻な状況に陥るかのような予測もあったが、現時点では、経済制裁が続いたとしても2016年くらいまではロシア経済が破綻するようなことはないとの見方が多い。もちろん原油価格が今後さらに下がれば、見通しも変わるだろう。
格付け会社のS&Pはこのほど、ロシア国債の格付けを「BBB-」として投資適格の範疇内に維持した。ロシア全体の対外債務状況が保有する準備資金との兼ね合いでまだジャンク債とするほどではないと判断したのだろう。
今のところ市民生活に大きな変化は見られない。プーチン大統領のウクライナ政策に対する国民の評価は極めて高い。今月実施の世論調査で彼の支持率は86%に上る。これは2000年に大統領に就任して以来の最高に近い。
しかし、制裁、ルーブル安、低成長がロシア経済によいわけがない。制裁は対ロ投資を抑え込むだけでなくロシアからの資本流出にはずみをつけ、技術革新に悪影響を与える。ルーブル安で企業の債務返済負担が増える。そしてインフレ率が上昇する。ロシアの消費財に占める輸入品の比率は高く、ルーブルの対ドル・レートが20%下がれば、食料品価格は30%以上上がるという分析もある。ルーブル安は特に低所得層に打撃を与える。
ロシア経済が短期のうちに危機的な状況に陥ることはないのだろうが、昨今の変調は制裁解除への努力と、「原油・天然ガス依存症」からの脱却をめざした息の長い努力の必要を物語っている。