ストック経済化した経済では、知的財産権や特許など、新しいタイプの資本の所有が問題になってきます。農作物の種子の遺伝子情報など、新しい知財に権利が設定されていきます。
ストックの格差は、個人と個人の間にだけでなく、国と国との間にも存在します。たとえば現在のアメリカは、ずば抜けてストックを持っています。物的、あるいは金融的な資産はもちろんですが、特許のような知的財産権も独占しています。
現在、環太平洋経済連携協定(TPP)を筆頭として世界で起こっている自由貿易ブームの内実では、もはや関税は中心的な問題ではありません。アメリカが熱心に取り組んでいるのは、知的財産権や投資のルールの設定です。物のフローも資本の移動も自由化した現在では、この種の権利やルールを押さえることができるかどうかこそが、対外的な経済政策の真の課題です。
フロー分析に関しては、デイヴィッド・リカードが理論化した、比較優位という考え方がうまく成立します。つまりそれぞれの国は、他国より割安で生産できる財について他国に対して優位性があるのだから、その財の生産に特化すればよい。その財の輸出によってお金を稼ぎ、自国では生産しない財は輸入によって賄えばよいといった、自由貿易による国際的な協調発展のモデルです。その考え方で言えば、たとえばベトナムの人が低賃金労働で製品を作り、それをアメリカが買う。その代わりに、アメリカがサービスなどを売る。そういう交換になります。
けれどもストック分析の場合は違います。アメリカとそれ以外の国では、ストックは平等どころか桁が違いますから、その状況の中で知的財産権のルールをアメリカン・スタンダードに合わせると、富がアメリカに還流される仕組みが強化されるでしょう。種子、薬品、意匠権、その他諸々がそうです。ビジネスモデルのようなものに至るまで、あらゆるところに特許を設定されていく。TPPにはそういう体制を強化する側面があります。
国と国との間でのストックの不平等は深刻で、これからも広がっていくでしょう。現在の自由化協定は、それをさらに促進させる懸念があります。
ピケティが述べるような、ストックを「持つ者」と「持たざる者」の分断が起こるのは、国家間でも同様です。資本主義が現在の停滞を抜け出そうとするならば、国際的なストック格差について再考し、自由貿易礼賛の流れを転換する必要があります。
注1)次回も来週火曜日掲載です
注2)今回の連載の内容を含む書籍が、2015年に刊行予定です