中国が人民元切り下げに踏み切った。中国人民銀行(中央銀行)による「対ドルレート基準値の計算方法の変更」という表現だが、落ち込みの続く経済の現状に対応した措置だ。今回は単発の措置としているが、人民銀行が今月7日に公表した第2四半期貨幣政策執行報告では「人民元レートの双方向への変動弾力性を強化する」としており、今後、市場変動と称して、人民元切り下げに誘導していくとみて間違いない。
中国が人民元切り下げに動いているのは、言うまでもなく、輸出産業が苦境にあるからだ。7月の輸出が前年同月比8・3%減と予想外の大幅な落ちとなったが、輸出の前年割れは年初からみられた傾向で、それが月を追うごとにますます深刻化している。繊維、靴、カバン、玩具といった軽工業品の競争力低下はすでに7~8年前から目立ってきたが、鉄鋼、石化製品など素材、薄型テレビなど家電、スマホ、パソコンなど電子機器、さらには造船、重機などでもトルコ、インドネシア、インド、ベトナムなどに負けるケースが増えており、輸出型製造業の集積地である広東省は企業倒産と工場閉鎖、撤退の嵐になっている。
そうした輸出不振を増幅しているのは日本だ。円安と日中間の賃金格差の縮小で、日本が造船、家電、電子部品などで競争力を回復させているからだ。訪日中国人観光客の「爆買」も中国内需の減少という形で中国の製造業に対して圧力となっている。
習近平政権としては、流れを変えなければ輸出産業からの政権批判、雇用不安の拡大を招きかねず、人民元安への誘導を決断した。中国政府は秋にも予想される米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げでドル高に振れるタイミングを待つ腹づもりだったようだが、あまりの輸出産業の苦境、輸出産業を中心とする企業の株価下落に耐えられなくなり、人民元切り下げを前倒しするしかなかったようだ。
為替市場はすでに人民元安の可能性を読んでおり、今後は政府の思惑通り人民元安に動くとみていい。中国経済の急激な落ち込みを米欧日は警戒しており、中国政府の人民元安誘導という批判は出てこないとみていいだろう。21世紀に入って貿易黒字の膨張に合わせて、じわじわと上昇してきた人民元はついにピークに達した。改革開放政策以来の中国の高度成長期は終わり、成熟化に向かうだろう。
人民元切り下げが意味するもの |
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経済不振の中国は今後、市場変動と称して人民元切り下げに誘導していくとみて間違いない
公開日:
(マーケット)
中国人民銀行=Reuters
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五十嵐 渉(ジャーナリスト)
大手新聞記者を30年、アジア特派員など務める。経済にも強い。
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