英メジャーBPが毎年、発表するエネルギー統計は半世紀以上の歴史を持つ権威ある統計で、各国政府から石油会社、製造業、環境団体まで世界で広く活用されている。今週、発表された2015年版は日本の新聞各紙の1面を飾るなど近年では最も注目された。米国が1975年以来39年ぶりに世界最大の産油国に復帰したからだ。米、サウジアラビア、ロシアの3カ国が日量1000万バレルを超えた。
米のトップへの復帰を「産油国の構造変化」と書くのは日本の新聞のエネルギー報道の底の浅さを示している。第1に米をトップに復帰させたシェールオイルの生産は今年から来年にかけて確実に減少し、米国の産油量は減少に転ずるからだ。
サウジは昨年秋以降の原油価格急落を演出した後も生産量を落とさず、世界の石油需給を緩和させ、原油価格の上昇を抑える戦略を継続している。サウジが主導する石油輸出国機構(OPEC)は6月5日の総会で現行生産枠の継続を決め、原油市況は軟調となっている。サウジは原油価格の押し下げ、生産コストの高い米シェールオイルを追い詰める戦略を続けている。
ここまで持ちこたえてきた米シェールオイルの生産はここから下落に転じる。今年の世界の成長率は3%割れは確実な情勢で、エネルギー需要を牽引してきた中国経済はすでに成長は6%台に落ち、さらに下向きだ。今年1~5月の中国の電力需要は0.5%しか伸びておらず、石油需要はマイナスとなる見通しだ。
今年後半に原油価格は再び1バレル50ドル割れの局面すら予想される。その環境では米国もロシアも増産は困難だ。結局、米国の産油国トップは「1年天下」となるだろう。
サウジの石油戦略の本質は「石油の需要をできるだけ引き延ばす」ことであり、そのためには代替エネルギーの台頭を可能な限り抑えることが必要。原油価格を50ドルから離れない水準で上下動させ、非在来型の石油も含む代替エネルギー開発を落としていくことがサウジの最も望んでいることだ。サウジなど中東産油国も財政が厳しく、原油高を望んでいるという指摘もあるが、サウジは原油価格が10ドル台でも国家運営に破綻はなかった。
武器購入など不要な政府支出を減らせば、簡単に財政は均衡する。米の産油国トップの裏にあるサウジの動きと戦略こそしっかり確認すべきだ。
米の産油量トップは「1年天下」で終わる サウジの石油戦略 |
あとで読む |
39年ぶりに世界最大の産油国に返り咲いた米国。しかし、「シェールオイル追い詰め戦略」は成功しつつある 五十嵐渉
公開日:
(マーケット)
米国の石油精製施設=Reuters
![]() |
五十嵐 渉(ジャーナリスト)
大手新聞記者を30年、アジア特派員など務める。経済にも強い。
|
![]() |
五十嵐 渉(ジャーナリスト) の 最新の記事(全て見る)
|