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難聴の認知症の方とのコミュニケーション

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【尊厳ある介護】帰宅願望が強いときにわかったこと

公開日: 2021/09/09 (ソサエティ)

Reuters Reuters

里村 佳子 (社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)

「ばかにしないで。わたしには家に帰る権利はないの」。

 施設利用者の柴村恭子さん(仮名92歳)が大きな声で、介護スタッフを問い詰めました。

 「ご家族が何と言われているかビデオを見ませんか」。

 介護スタッフはタブレットを見せながら、耳元でゆっくりとした口調で話しかけました。

 柴村さんは難聴と認知症を患っているので、コミュニケーションが困難です。加えてマスクのせいで、声がこもったり表情が伝わらなかったりするので、話を誤解して急に怒り出すことが度々あります。そのため、介護スタッフたちは悩んでいたのです。

 そこで、事前にご家族にお願いし、柴村さんにむけて「安心して施設で過ごせるようなメッセージ」をしていただき、それをビデオ撮影することにしました。

 その結果いつもではありませんが、ビデオで落ち着かれることがあったのです。

 でも、その日はビデオを見せてもそっぽを向いて、帰宅願望は収まりませんでした。それどころか、ますます興奮し柴村さんの大声は施設中に響き渡りました。

 心配になった私は柴村さんの傍まで行って、「喉が渇きませんか」と言ってお茶を差し出すことにしました。

 ところが、「そんな物はいりません」と怒ってコップを投げたのです。

 思わず私は後退りしましたが、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせ「コップを投げられて悲しい」と、身振り手振りで伝えました。

 というのも、私は認知症や難聴の利用者と会話する場合は、伝わりやすいようにジェスチャーなどの非言語を積極的に使っているのです。

 ですが、そんな私には目もくれず「家に帰る」と言って席を立ちあがり、エレベーターの前まで行かれました。

 介護スタッフはあわてて後を追って行きエレベーターの前に立ちはだかりましたが、「どいて。あなたたちの言うとおりにはしません」と、怒鳴られます。

 私は柴村さんを制止しないよう介護スタッフに伝え、そのまま一緒にエレベーターに乗り1階の玄関まで行きました。

 玄関を出ると前は道路です。外に出てしまったらどうしようと思っていたら、柴村さんの足は止まりました。どうやら、家に帰ろうとしても方向が分からないのです。

 急いで私は柴村さんの傍に椅子を持って行き、座っていただきました。

 そして、視線があったことを確認し、両方の手のひらを合わせて頭を下げお詫びしました。

 「家に帰りたかったのに止めて、ごめんなさい」。

 すると、「私の方こそごめんなさい。人としていけないことをしてしまって」と、謝罪されたのです。

 私は自分の耳を疑いました。

 まさか、柴村さんが自分の言動を覚えていて反省し、謝るなんて考えてもみなかったのです。

 そこで、柴村さんの肩に手を置いて、「仲直りできたので、みんなが待っている所へ、戻りましょうか」と誘うと、うなずいて施設に戻られました。

 そのようすを見ていた介護スタッフは「どうしてあんな短時間で柴村さんは穏やかになったのですか」と、首をかしげました。
 
 私はこの時とばかりに腕を曲げて力こぶを作り、「スキルがあるから」と自慢しましたが。

 実は以前にも書きましたが、認知症の人に気持ちを伝えるコツは視線を合わせることなのです。案外それを分かっていない人が多いので、伝えているつもりでも、伝わっていないことがしばしばあるのです。

 このように、私たちは家族と会えなかったり物忘れがあったりする利用者が、落ち着いて過ごせるよう、ビデオなどを使った新しいアプローチにチャレンジしています。

 ビデオメッセージは物忘れのある利用者には繰り返し活用できるので便利です。しかし、使い方次第で効果に差が出ます。

 比較的効果があるのは、機嫌が悪くなる前にビデオメッセージを見ていただくことです。

 また、難聴のある利用者はメッセージを聴きとりにくいので、メッセージの内容を書いて見せる工夫が必要です。

 他方で、これまで使ってきた非言語のコミュニケーションも効果的なので、そのスキルを磨くことも忘れてはなりません。

 とにもかくにも、トライアルアンドエラーでデーターを積み重ね、認知症ケアを更新していきましょう。

(注)事例は個人が特定されないように倫理的配慮をしています。
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里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
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