環太平洋経済連携協定(TPP)の国内対策づくりが大詰めだが、この2人に注目する。“改革派”として激戦選挙に勝ち、8月に全国農業協同組合中央会(JA全中)会長に就いた奥野長衛と、先月、自民党農林部会長になったばかりの小泉進次郎だ。
入閣を断ったと噂される小泉は、党内でTPP交渉賛成派の先駆けだった。国内対策を仕切る立場でも「バラマキはしない」と公言する。若手生産者との意見交換会で、「研究も努力もしないで給付金・補助金だのみの人たちがいる」などの若手農家の声も聞き、「今までの会議で最も心を打たれた」と語った。
執行部が、農政の素人の小泉を、あえて難役にあてたのは、同じ対策を打つにも、そのイメージでバラマキ色が薄れる効果を期待した、との見方もある。
奥野の経歴もユニークだ。伊勢の農家の跡取りだが、関西大学を出て、生活協同組合(生協)活動にのめり込み、新生協の立ち上げにも関わる。農家を継いでからも田畑を担保に農協から借金し、名産「伊勢たくわん」の店を大阪に近い尼崎に開き、ダイコンの生産、加工、販売と“6次産業化”の草分けだった。
全中では、TPP反対運動のやり方で、当時の執行部に意見した。「日比谷公園の野外音楽堂に農家代表を3~4千人集め、政治家を呼んで決意表明させ、デモをする。政治的圧力をかけ、わが意を通そうとするJAは、世間の人には悪の集団に映る」と。
「政権と対決しない。対話する」という奥野の小泉評は「(小泉の)地元JAとの関係は良好とわかった」と好意的だけに、2人のコラボに期待がかかる。
農林族に、世間が怒ったのは20年ほど前のウルグアイ・ラウンド(UR)国内対策だ。世界貿易機関(WTO)の前身、GATT(関税貿易一般協定)多角的貿易交渉は1993年、非自民連立の細川護煕政権がまとめた。政権交代があり、国内対策は翌年、自民、社会、さきがけ連立の村山富市政権が打ち出した。
政治主導で何と総額6兆100億円。半分強が農業農村整備事業費(農業土木)で、温泉施設建設などにも使われ、壮大な税金の無駄遣いと批判された。
ところが、昨年出た検証リポート(東京財団「ウルグアイラウンドと農業政策」)は、この通説に異を唱える。UR対策事業は、既存事業の拡大や組み替えが多く、公共事業全体に占める農業土木の比率も変わらず、突出した上積みはなかった、というのだ。
“幻の6兆円”だったのか。とはいえ農業の強化に役立たないバラマキがなかったわけではなく、UR対策前も対策期間中も、続いていたのが実相だろう。
TPP対策への教訓は、規模(総額)は無意味であり、要は実効ある中身を、突き詰めることだ。
TPP対策、奥野・進次郎コラボでバラマキ回避? |
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【けいざい温故知新】革新派の奥野JA会長と素人・進次郎
公開日:
(政治)
Reuters
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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