しょせん官の商法、官製ファンドの投資が成功するかどうかはわからない。
環境省所管のグリーンファイナンス推進機構の投資先の第1号案件(2013年10月)は、新エネルギーの旗手ともてはやされた東証マザーズ上場のエナリスだった。群馬県で行われる同社のバイオガス事業(総事業費8億円)に温室効果ガスの削減効果が見込めるとして総額1億円を投じている。
ところがこの投資決定からわずか1年後の14年暮れ、創業社長ら上層部が関与した同社の不適切な会計処理問題が発覚。第三者委員会がまとめた報告書によって、エナリスでは〝粉飾〟に限りなく近い会計処理が行われて来たことが明らかになった。
それに対してグリーンファイナンス推進機構の広報担当者は「エナリスでそういう問題が起きるとは見抜けなかった」と正直な弁。しかし、群馬でのバイオガスプロジェクトは「順調にいっている」と〝問題はない〟という主張を押し通す。だが、節穴の官製ファンドの言にどこまで説得力があるだろうか。でたらめな経理を続けてきたエナリスからすれば、環境省系官製ファンドの出資は自らの信用補完に使っただけかもしれない。
国土交通省の旧建設省系が設立した環境・不動産普及促進機構は、老朽不動産を耐震性があり、しかも環境に優しい建築物に建て替えることを促進する官製ファンドだが、SPCや投資事業有限責任組合を活用した仕組みが複雑なスキームとなり、家主や不動産業者からは敬遠されている。350億円の資金をもって13年2月に発足したが、これまでに出資したのはわずか5件しかない。
ついにはファンドでありながら儲けを度外視する官製ファンドも登場した。
東京・六本木ヒルズに拠点を構えるクールジャパン機構がそれだ。イッセイミヤケ社長などを経て就任した太田伸之社長は「民間の投資とは違って短期決戦ではない。長期戦で投資するために儲けることを目的にしていない」とまで言い切った。
クールジャパン機構はこれまでに12件、総額318億円を投じてきたが、三越伊勢丹ホールディングスのマレーシア展開支援など本当に官の手助けが必要なのか疑わしい事例もある。さらに長崎県発の日本茶の米国への販売展開支援など、なるほど「儲けることを目的としない」という投資先が投資先一覧に並ぶ。
官の投資はかつて手痛い大失敗例がある。旧通商産業省と旧郵政省が所管して1985年に設立した基盤技術研究促進センターである。政府が2790億円出資し、民間出資分をあわせて合計4000億円を先端技術分野に投資するという触れ込みだったが、出資先企業のほとんどが「人件費や材料費、機械の減価償却等の費用が発生する一方で、その間の収入がほとんど得られない」(会計検査院の2000年度の検査報告書による)という状態で、4000億円の投下額に対して特許収入などのリターンは合計でわずか30億4627万円だった。
「全部外れ。これだけ外れるのも珍しい。民間でやったら少しは当たっていたのではないか。どだい官僚が投資先の目利きをするなんて不可能。そもそも、そういうのができない、そういうのがいやだから官僚になったんだから……」と、旧大蔵省で同センターの予算を担当したこともある高橋洋一嘉悦大教授は嗤う。結局、基盤技術研究促進センターは、会計検査院に「出資金の回収は困難」と烙印をおされ、2000年度に解散。しかし誰も責任をとらされなかった。
こんな「第2の基盤センター」問題が生じてもおかしくはないが、財布を握る財務省はきわめて鈍感だ。自らが所管する日本政策投資銀行に13年3月、ファンド総額1500億円の競争力強化ファンドを創設させたから各省庁と〝共犯〟関係にあるのだ。〝同じ穴の狢〟といっても過言ではなかろう。同競争力強化ファンドは、アベノミクスでいうイノベーションを強化するという触れ込みだが、アドバイザリーボードには奥正之(三井住友フィナンシャルグループ会長)、張富士夫(トヨタ自動車名誉会長)ら著名財界人が並ぶ。「政投銀の産業界への影響力を堅持したい財務省の意向の表れだろう」と官製ファンドに詳しい元経産官僚の古賀茂明氏は見る。財界に〝貸し〟をつくりたいのだ。
未曽有の財政難であるはずなのに財務省は太っ腹だ。財務省理財局の担当官は「官製ファンドの資金の多くは元々投資目的の財投資金です。出資した資金は株や債券に変わるので、国の負債がただちに増えるわけではない」として官製ファンドのバラマキを肯定している。