前回は、自民党東京都連のボス、内田茂前幹事長を「(利権を追う)黒い頭のネズミ」としてやり玉にあげ、今回は、「決断しない安倍首相」というイメージを醸成させたうえで、「小池氏の水面下の工作で、ようやく首相は緊急事態宣言を発出した」という形に仕上げた。これで、7月5日の都知事選は圧勝、小池氏はその先の国政復帰と首相への挑戦も見据えている、といった観測すらある。
ただ、「敵を作って腐敗を撃つ」という手法は喝采を浴びるが、踏み台にされた側の怨嗟を生む。考えてみれば築地移転騒動は何だったのか。希望の党を設立するまでのうねりのような小池ブームは、排除発言で急速に萎んで総選挙では惨敗した。きっかけとなった築地市場は、18年10月、何事もなかったかのように豊洲に移転した。

都政新報社、澤章著2020年3月刊 税込1870円
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著者の澤章氏は、一橋大学を卒業後、86年に都庁に入り、総務局人事課長、知事本局計画調整部長、環境局次長を経て、16年9月、中央卸売市場ナンバー2の次長となった。以来、1年半、常に「築地と豊洲」とともにあり、関係部署や専門家会議、小池知事本人はもちろん顧問団など知事周辺との交渉をメモとして残していた。
『築地と豊洲』は、その詳細な記録を記憶とともに再現したものだが、単なる「備忘録」ではない。汚染された豊洲への移転に関し、「ここはいったん立ち止まって、みんなが納得する結論を出したい」と、16年7月の都知事選で訴えた小池氏が、当選後、築地問題を自らの存在証明に使い、築地の移転賛成派と反対派の双方を巻き込みながら、都の官僚を疲弊させつつ「小池劇場」を、メディアを通じて国民に堪能させた小池氏の凝縮した1年半を追ったノンフィクションである。
都民に約束した土壌汚染対策の柱である「盛り土」をせずに地下空間を設けていた問題、安全安心のはずが、第9回地下水モニタリングの結果、基準値を79倍超えるベンゼンが測定された問題など、小池氏が立ち止まって考えたことにより、多くの課題が噴出、「都政の情報公開による透明化」により、広く認識させる効果はあった。だが、それが小池氏と澤氏が「ドクターK」と呼ぶ顧問の思惑によって、どのように使われたのかという“内幕”は伝わっていない。
小池氏は、石原慎太郎、猪瀬直樹、舛添要一と続いた都知事が、自民党都連の内田氏らが握る公共工事の発注システムと折り合いをつけ、「ブラックボックスのなかで築地を処理した」と批判、見直しに着手した。テレビのワイドショーを含め、メディアは「築地の闇」を報じ、石原氏と側近の元副知事は百条委員会にかけられて過去を蒸し返され、小池氏は「闇を切り裂く仕置人」の役割を担ったが、小池氏もまたブラックボックスを抱え込んでいたことは知られていない。

著者の澤章氏
だが、それでは遅過ぎる。澤氏が吹っ切れたように出版の経緯を語る。
「都政が都の官僚の側から語られる、ということがこれまでほとんどありませんでした。中央官庁にはあり、それが国民に政治や行政を知らせる役割を担っている。幸運なことに私は、都の最大イベントとなった築地の豊洲への移転を内部から眺めてきました。そこにはメディアにはまったく伝えられていない『真実』があり、それをオープンにすることが私の役割だと思いました」
知事周辺からの反応は、予想通りだったという。都の職員に「本を買うな」というお達しがあり、都庁の記者クラブには「書評などで取り上げないで欲しい」という水面下の依頼があったという。大手メディアの記者は、「面白いので取り上げたいが、ウチは今、小池派なんでムリです」と、申し訳なさそうに連絡を寄こした。澤氏は、「それだけ知事にとって怖い本なのかも知れません」と、屈託なく笑う。
「築地と豊洲」の出来事に絞っているとはいえ、使われた資料も交わされた会話の再録も膨大。ただ、ディティールがしっかりしているうえ、時系列でまとめられているので読みやすい。しかも自費出版で何冊か上梓、筆は手馴れていて軽みもあって読みやすい。
「築地か豊洲か」の論義が過熱するなか、17年の新語・流行語大賞にノミネートされた小池言葉に「アウフヘーベン」がある。直訳は「止揚」で、ドイツの哲学者・ヘーゲルが提唱した概念だが、澤氏は「矛盾する要素を対立と闘争の過程を通じて発展的に統一すること」と説明、「市場移転問題、基本方針にドンピシャな用語である」としたうえで、次のように皮肉る。

17年6月、築地移転の基本方針を発表、その時の一番目に発表されたキャッチフレーズが、「築地は守る、豊洲を生かす」だった。玉虫色のこのコピーに、周囲の反応を見ながら判断、出来るだけ敵を作らないようにするという“小池らしさ”が表れている。だが、「守って生かす」は言葉遊びに過ぎなかった。結局、反対派の仲卸業者や女将さん会への「築地に戻ってくる」という約束は、17年7月の都議選で、自らの私兵となる都民ファーストの会の圧勝でトーンが落ち、やがて安全宣言を出し、なし崩し的に豊洲に移転した。
そもそも小池氏は、本当に安全安心のために移転を止め、築地との共存、もしくは豊洲は総合物流拠点にして築地に市場を戻すつもりだったのか。興味深いのは、当初は、短期決戦を狙っていた、というくだり。それが、ベンゼン79倍で崩壊した。

豊洲市場=CC BY-SA 3.0 DE
そこには都民目線も市場はどうあるべきかという理念もなく、あるのは自らを高く売るベテラン政治家の処世術だけ。思惑通りに築地をステップボードにした希望の党は、一時、自民党を飲み込むかという勢いだった。
都官僚として、最終章に迎えた小池都知事との二人三脚は、同床異夢ではあったが刺激的な常住戦場だったという。澤氏は、そこで体験した「等身大の小池百合子」を我々に伝える。今も女性初の宰相候補に留まっている小池氏はそれに相応しいか。その判断材料を与える書であるのは疑いない。
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