新聞・テレビのニュースが新型コロナウイルス一色となる中、4月26日投開票で国政選挙(補欠選挙)が行われたが、どのくらいの人が関心を持っていただろうか。
戦いの構図は、共産党を含めた与野党一騎打ち。衆議院の任期が残り1年半となる中で、本来なら来たる解散総選挙の行方を占う重要な位置づけの選挙のはずだった。しかし、コロナ禍の影響で報道は少なく、終始、与党圧勝の勢いだったこともあり、あまり注目されることなく、選挙はひっそりと終わってしまった。
改めておさらいすると……。
補欠選挙が行われたのは衆院静岡4区(静岡市清水区、静岡市葵区の一部、富士宮市、富士市)。自民党の望月義夫元環境相の死去にともなうものだった。立候補したのはいずれも新人で、結果は以下の通り(敬称略)。
当選 66881 深沢陽一 自民党(43=公明党推薦)
38566 田中 健 無所属(42=立憲民主党・国民民主党・共産党・社民党推薦)
1887 山口賢三 無所属(72)
1747 田中 健 NHKから国民を守る党(54)
投票率は34・10%で、前回2017年総選挙時と比べ19・62ポイントもの大幅ダウン。選挙期間中の4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大され、外出自粛が広がったことが色濃く影響した。候補者にとっても選挙運動は厳しさを極め、公民館など密閉空間での個人演説会は開けず、握手もなし。街頭演説会などへの参加の呼び掛けも自粛。
「企業団体を回ることも演説会への動員もできず、電話を掛けるしかやれることがなかった」(自民党関係者)。過去最低を更新したという投票率から、ほぼ各党の基礎票だけの戦いになったことが読み取れる。
弔い選挙なので自民党が強いのは当然だとしても、ダブルスコアに近い野党の惨敗はコロナだけが原因ではない。
「1つは戦い方」だと指摘する永田町の選挙のプロは、「野党統一候補の限界が見えた」と〝盲点〟を次のように解説した。
野党の候補者は国民民主党系だったが、告示前に共産党が候補者擁立を見送り、4党で共闘するために無所属で立候補し、「衆議院で全国初の野党統一候補」を看板にしていた。だが、無所属での選挙運動が政党公認候補と比べて圧倒的に不利なことは、選挙関係者なら常識だ。候補者が個人で配ることが許されているビラやポスターの枚数、使える車両数、選挙費用は公職選挙法で決められているものの、政党公認候補は、個人の分に加え、政党分が上乗せされるからだ。
例えば、街頭などで配るビラは、個人分は7万枚まで。公認候補なら政党分の4万枚も配布できる。選挙用はがきも個人は3万5000枚、公認には政党分の2万枚が加わる。選挙カーも個人は1台だが、公認は政党が車を回すことができる。テレビやラジオの政見放送は公認しか認められず、無所属はできない。使える選挙費用も、個人分には上限があるが、政党分に上限はない。
コロナ禍で選挙運動に制限を余儀なくされたのは与党も野党も同条件。ビラなどのいわゆる物量作戦で野党は与党に差をつけられたわけだ。
惨敗要因のもう1つは、昨夏の参院選以来の野党間のしこり。特に改選数2の参院選静岡選挙区は、過去、自民党と野党で1議席ずつを分け合ってきたが、昨夏は国民民主党現職の榛葉賀津也氏と立憲民主党新人の徳川家広氏が激しくぶつかり、榛葉氏が勝利したものの、その因縁は国会の野党統一会派(立憲民主党・国民民主党・社民党・無所属)の運営にも影を落としているほど。
衆院は代議士会などを合同で行っているが、参院はいまだ各党別々で議員総会が行われ、統一会派解消すら模索されている。
「候補者擁立から選挙戦の最後まで、国民民主党参院幹事長で静岡県連会長でもある榛葉さんの暴走が目立ち、野党間は協調性に欠けた。野党統一候補と言いながら合同の選対本部はなく、各党がバラバラで、ビラもそれぞれ独自に作製した。最初から勝利への執念がなかった」(静岡の野党関係者)
立憲民主と国民民主は今年の年初に合流協議が進んだものの、あと一歩のところで事実上の破談となった。もし合流していたら、合流政党の公認候補を共産党と社民党が推薦する形となり、前述した無所属の不利益は回避できていただろう。
コロナで選挙運動が制約を受ける一方で、政府のコロナ対策への批判は、選挙期間中に確実に高まっていた。1世帯に布マスクわずか2枚の配布という「アベノマスク」、アーティスト・星野源の動画にコラボした安倍首相の自粛要請動画の無神経な投稿、条件付きの現金給付30万円から1人一律10万円への迷走など、国民の不満は高まり、安倍内閣の支持率は下落傾向にあった。その点では、野党にも補選で勝利するチャンスはあったのだ。
ダブルスコアほどの大差ではなく、少なくとも接戦に持ち込めれば、安倍政権や与党に危機感を与えられたのに、それすらもできない情けなさ。
無所属の野党統一候補ではよほど知名度があって強くないと勝負にならない。そして、立憲民主と国民民主は将来的に合流するのか否か。
秋の補選や来たる総選挙に向け、野党に突きつけられた課題は大きい。
静岡補選が見せつけた「無所属」野党統一候補の限界 |
あとで読む |
【小塚かおるの政治メモ】コロナ禍での異常な選挙運動だけでない、野党の惨敗
公開日:
(政治)
Reuters
![]() |
小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
|
![]() |
小塚かおる(日刊現代第一編集局長) の 最新の記事(全て見る)
|