1月31日投開票だった東京都の千代田区長選挙が、政界でにわかに注目された。
有権者5万人という東京23区の中でも小さな自治体の首長選が耳目を集めたのは、小池百合子東京都知事と自民党東京都連のドンと呼ばれた内田茂元都議という反目し合ってきた2人が、区長選をめぐって〝手打ち〟したと伝えられたからだ。
選挙は、小池氏が支援する地域政党「都民ファーストの会」推薦で、同党の千代田区選出の都議だった樋口高顕氏(38)、自民党と公明党が推薦した前千代田区議の早尾恭一氏(59)、日本維新の会推薦の会社役員・五十嵐朝青氏(45)の事実上の三つ巴となり、結局、樋口氏が初当選した。
千代田区は都議時代の内田氏の地盤だが、内田氏は党の決定に反し、早尾氏支援に難色を示したという。その裏には、現在千代田区議の娘婿の存在があり、7月4日投開票が決まった今夏の東京都議会議員選挙で娘婿を都議にするためには、樋口氏の区長転出は内田氏にとって都合がいい、という事情がある。
自民党都連は内田氏の〝暴走〟に頭を痛めながらの選挙戦を余儀なくされ、ゴタゴタの末に敗北を喫した。
千代田区長選挙から何が見えるか。
政権に復帰した2012年12月の衆院選以降、自民党は国政選挙では6連勝を誇ってきた。しかし、地方に目を転じると、ここへきて自民党の地方組織はガタつき、一枚岩ではなくなっている。その結果、千代田区に限らず、全国の首長選挙で保守分裂や推薦候補の敗北が相次いでいるのである。
保守分裂は、直近では1月24日投開票だった岐阜県知事選挙だ。現職知事の古田肇氏(73)を野田聖子自民党幹事長代行ら国会議員が中心に支援し、自民党県連重鎮の猫田孝県議らが元中央官僚の新人・江崎禎英氏(56)を擁立。54年ぶりの分裂選挙となった。
猫田県議は県連のドンのような存在で、長らく野田氏の後ろ盾だったが、今回、袂を分かった。選挙は、現職の古田氏が江崎氏に7万票差をつけて5選を果たしたものの、野田氏は「県連をまとめられなかった」として分裂の責任を取って県連会長を辞任した。
昨年10月25日投開票の富山県知事選挙も51年ぶりの保守分裂選挙だった。宮腰光寛元沖縄北方相ら国会議員を中心に現職の石井隆一氏(74)を支援し、一部自民党県議らはガス会社前社長の新田八朗氏(62)を擁立。こちらは、新人・新田氏が現職の5選を阻んで勝利している。
この先も、3月21日投開票の千葉県知事選挙と4月4日の秋田県知事選挙が保守分裂の様相で推移している。
千葉は、現職の森田健作知事が引退を表明、自民党千葉県連は県議の関政幸氏(41)を擁立し、党も推薦を決めているが、一部の国会議員や地方議員は、既に立候補を表明している千葉市長の熊谷俊人氏(43)の支援に回るとみられる。
秋田は、4選を目指す現職の佐竹敬久氏(73)と元民進党衆議院議員の村岡敏英氏(60)が出馬を表明。村岡氏は故村岡兼造・元官房長官の次男で、もともとは保守系だ。2019年の参院選では、知事選で支援を受けることを見越して、野党候補ではなく、自民党候補の応援に回った。
「佐竹知事の後継は村岡氏ということで一旦は話がついていた。ところが、佐竹氏がやっぱりもう1期やると言い出した。党は公明党とともに現職を推薦するが、一部の自民党県議は村岡氏の支援を決めており、分裂選挙になるのは確実」(自民党関係者)
一方、自民党が大惨敗したのが、1月24日投開票だった山形県知事選挙だ。4選を狙った現職の吉村美栄子氏(69)に対し、自民党は県議だった大内理加氏(57)を立て、公明党の推薦も得て挑んだが、まったく歯が立たなかった。現職優位とされてはいたものの、約40万票VS約17万票は予想外の大差だった。
市長選挙では、自民党が推薦した現職の敗北が目立つ。
直近では、1月17日投開票の沖縄県の宮古島市長選で4選を目指した現職の下地敏彦氏(75)が、玉城知事を支える「オール沖縄」が支援した座喜味一幸氏(71)に敗れた。
こうした負の流れは昨年から続いていて、愛知県の岡崎市長選挙(昨年10月18日投開票)では、3選を目指した現職の内田康宏氏(67)が、元民進党衆議院議員の中根康浩氏(58)に敗れた。同じく愛知県の豊橋市長選挙(昨年11月8日投開票)でも、4選を目指した現職の佐原光一氏(66)が、前愛知県議の浅井由崇氏(58)に敗れている。
このように、地方選挙での自民党の分裂や敗北は挙げればキリがないほどだ。
自民党の地方組織のガタつきについて、選挙のプロは次のように解説する。
「組織の統制力や統率力が低下してきているのです。かつてはどこの地方組織も国会議員か都道府県議がボスやドンとして君臨していたものですが、亡くなったり、高齢化して、地方のタガが外れてきた。衆院選が小選挙区制になったことで、国会議員は党本部の公認を得られればよく、地方議員との親分子分の関係が薄れた。指導者が小粒化して、組織の統制力がなくなっているのは、企業など日本社会全般に言えることだと思いますが、政界はその象徴でしょう」
例えば、前述した秋田県知事選なら、同県出身の菅義偉首相や県連会長の金田勝年元法相が、現職の佐竹知事に「もう後進に道を譲ったらどうか」と声を掛けるなど保守分裂回避に動くべきなのだが、そうした調整ができなくなっているのが今の自民党なのだという。
「政府や行政の新型コロナ対策への批判が高まっている中では、選挙には期待感よりも不平不満が現れる。自民党推薦の現職が敗れているのは、多選批判とともに、そうした不満もあると思います」(同上)
野党が存在感を示せないまま1強他弱の政治が長く続いたことで、自民党の組織に緩みや慢心が生まれ、組織内での権力闘争に関心が向きがちだ。
今年は必ずどこかで衆院選が行われる。保守分裂選挙は必ずしこりが残る。組織の弱体化につながり、衆院選への影響は小さくない。
報道機関の世論調査では、相変わらず自民党の政党支持率は高いが、内部は蝕まれている。(※年齢はいずれも投開票日)
自民党 地方にきしみ 相次ぐ分裂選挙と敗北 |
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【小塚かおるの政治メモ】千代田区長選でも自民敗北 ドン内田元都議が小池系を推す?
公開日:
(政治)
Reuters
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小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
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