「夕食会場入り口の受付において安倍事務所の職員が1人5000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金したすべての現金をその場でホテルに渡すという形で参加者からホテル側に支払いがなされたものと承知しております」
昨年11月の安倍前首相の国会答弁である。
明らかにこの説明は不可解だった。
後援会主催のツアーに参加した数百人もが、安倍事務所を介さず直接ホテルと契約するなんて、ちょっと考えれば誰でも「あり得ない」と分かる嘘の答弁なのに、これを平然と繰り返してきたのが安倍氏だった。
「桜を見る会」の前夜に行われた夕食会の費用約900万円を安倍事務所が補填していた問題は捜査が大詰め。近く安倍氏本人も東京地検の任意の事情聴取を受ける見通しだという。
「安倍氏周辺」とされる人物がメディア各社に語ったところによれば、安倍氏は補填の事実について「私は知らなかった」で通すようだが、5年間で900万円もの資金を秘書の一存で出せるものなのか。その原資は何なのか。この期に及んでも、安倍氏はさらに嘘を重ねるつもりなのだろうか。
安倍政権での「虚偽答弁」が立証されたのは、この「桜を見る会」に限らない。
12月5日に閉会し、41日間と短かった臨時国会で、私が一番の問題だと憤りさえ覚えたのは、学校法人「森友学園」への国有地売却問題を巡る国会質疑で、事実と異なる政府答弁が実に139回もあったことが分かった一件だ。
立憲民主党の川内博史衆院議員の求めに応じて、衆院調査局が2017年2月~18年7月まので衆参の国会質疑を調査した。財務省がまとめた決裁文書改ざんに関する調査報告書と会計検査院が参院予算委員会に提出した報告書という〝公文書〟を、国会での政府答弁と照らし合わせた結果、139もの虚偽答弁があったというのだ。
国民の代表者が議論する国会の場での嘘は、国民に対する嘘である。嘘が常態化した国会がまかり通っていいはずがない。そこに与野党の区別はないはずで、行政府が立法府を愚弄しているのだから、与野党の議員がともに政府に対して怒らなきゃおかしい。
財務省の決裁文書改ざんでは、職員に自殺者まで出しているのだ。「僕の雇用主は国民です」と胸を張り、「国家公務員倫理カード」を常に携行していた故・赤木俊夫さんの無念を思い、国会として政府に再調査を要求すべき由々しき事態だ。
ところが、自民党の反応は鈍い。国会議員としての矜持より、政権の足を引っ張らないことが優先される。「嘘も百回言えば真実となる」という言葉があるが、7年8カ月も嘘つき政権が続いたことで、自民党内の感覚は完全に麻痺してしまった。
「かつての自民党はモノ申す議員がもっとたくさんいた」
古い政治記者はこう嘆き、小選挙区制度が衆議院議員を小粒にした原因だと解説する。中選挙区時代は、同じ選挙区で自民党から複数が立候補し、党内で当落を競った。
それで派閥間の勢力争いが激しくなり、資金力でしのぎを削って金権政治が横行した側面もあったのだが、小選挙区制度に代わり、選挙区の自民党候補は1人だけ、戦う相手は他党の候補者になった。1人しか出馬できないので、公認権を持つ総裁や幹事長の力が必然的に強くなる。現職議員といえども、党幹部に目を付けられないよう大人しくしなければ、公認を外されかねない。
結果、政府や党の方針に苦言を呈する跳ねっ返りは、個人名で当選する力のある選挙に強い議員などに限られるようになってしまった、という解説だ。確かに、今の自民党の劣化の一因は小選挙区制度にあるのかもしれない。
だが、制度以上に強く影響しているのは、中堅・ベテラン議員の「二度と野党になりたくない」という心理が生む内向きの姿勢ではないか。2009年の民主党政権時のこと、下野した自民党の議員らから聞かされたのは、こん
な愚痴ばかりだった。
「レクをお願いしたら課長しか来てくれなかった。与党の時は局長だったのに」
「予算編成の季節なのに党本部は閑散。陳情の団体の姿がどこにもない」
普通に聞けば、そんな大仰なことなのかと思ってしまうが、自民党議員にとっては、ちょっと呼べば局長が飛んできたり、業界団体が陳情にやってくることこそが権力の源泉だけに、耐えがたい悲哀を味わった3年間だったのだ。
それが逆バネとなって、自民党が早期の政権復帰に漕ぎ着けた面もあるだろう。しかし、与党でいられるならば、黒を白と言おうが、何でもアリの政党に変わってしまった。そうなると、国政選挙に勝利して与党で居続けさせてくれる安倍前首相に文句を言う人は誰もいなくなる(実際は野党が弱すぎるからだが)。党内に自浄作用が働かなくなり、虚偽にも無関心になる・・・。
自民党の閣僚経験者のひとりがこう言った。
「野党時代はドン底だった。しかし、なぜ野党になったのか、国民に嫌われたのかを忘れてはいけない。自民党を元に戻したい」
こうした良識派が少数派なのが悲しい。
虚偽答弁139回にも怒らない・・・ |
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【小塚かおるの政治メモ】救いようがないほどに劣化した自民党
公開日:
(政治)
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小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
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