小沢一郎衆院議員に昨年12月、インタビューをした。テーマは先の衆院選での立憲民主党や小沢氏自身の選挙区での敗北についてだったが、その中で印象に残ったのが、立憲民主の支持団体である労働組合「連合」についての次のコメントだった。
「だけど今、組織として一番深刻なのは、連合と共産党だよ。もちろん政権への道ということを考えれば、我が党の問題ではあるんだけれど。連合はこのままだと、かつての総評と同盟にまた分裂してしまうんじゃないか。連合は、立憲民主党と国民民主党が、昔の社会党と民社党になってしまっても、それでいいと考えているのか。どうかしているよ」
今夏は参院選がある。投開票日は7月10日が想定され、あと半年後に迫る。政権与党は着々と準備を進め、既に公明党は地域ごとの候補者ポスターを街中に掲示した。しかし、野党側は戦いの構図がまだよく見えない。
衆院選で議席3倍増となった日本維新の会は、「第3極」の立ち位置で全国での候補者擁立を目指している。前回3年前の参院選では、立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党の4党が全国に32ある1人区で候補者を一本化して戦ったが、今回も共闘は進むのか。
野党第1党を担う立憲民主が今回揺れている。これまでの野党一本化を継続して行くのか。衆院選の総括も1月中にずれ込み、これが終わらなければ前に踏み出せない状態。
迷走の大きな要因のひとつが連合だ。昨年会長に就任した芳野友子氏が「共産アレルギー」を全面に打ち出し、立憲民主と共産の連携に否定的な姿勢を示していることが影響していることは間違いない。
ただ、その連合そのものも、小沢氏の言う通りで足元はグラグラ揺らいでいる。ある意味、1989年の結成以来、その方向性で最大のヤマを迎えていると言ってもいい。
連合は参院選について、立憲民主と共産を念頭に、「目指す方向が大きく異なる党同士の連携・協力、政策協定締結は理解を得られない」とし、芳野会長は「選挙区調整は立憲民主と国民民主でやってほしい」と発言している。これは立憲民主への〝要望〟である以上に、連合内の事情が深く関係している。
日本最大の労働組合の全国中央組織(ナショナルセンター)である連合(日本労働組合総連合会)は、1989年に総評(日本労働組合総評議会)と同盟(全日本労働総同盟)など4つの団体が労働界の再編・統一を目指して大同団結したもの。
総評は官公労中心で政治的には社会党系、同盟は民間労組が多く、民社党系だった。連合となった後は、非自民非共産を支持し、細川連立政権と民主党政権の樹立を後押ししたものの、民主党(民進党)が2017年の衆院選で立憲民主党と希望の党(後に国民民主党)に割れたことで、
旧総評系と旧同盟系の路線の違いは顕在化した。
その結果、2019年の参院選に続き、今回も連合の組織内候補は旧総評系が立憲民主から、旧同盟系は国民民主から全国比例で出馬予定だ。旧総評系と旧同盟系が混在している基幹労連は、3年前は国民民主から組織内候補が出馬(落選)したが、今回はどちらの政党から出馬するのかまだ決まっていない。
立憲民主党
石橋通宏(情報労連・現職)
鬼木誠(自治労・新人)
古賀千景(日教組・新人)
柴慎一(JP労組・新人)
国民民主党
川合孝典(UAゼンセン・現職)
浜口誠(自動車総連・現職)
矢田わか子(電機連合・現職)
竹詰仁(電力総連・新人)
未定
村田享子(基幹労連・新人)
連合は前回も立憲民主と国民民主に分かれて戦ったとはいえ、野党の勢力地図は3年前とは大きく異なる。維新の台頭により、立憲民主は一部の世論調査では政党支持率で野党第1党の座を奪われており、国民民主は衆院11人、参院12人の弱小政党になってしまった。
そのうえ、連合が「立憲民主と国民民主で協力を」と求め、立憲民主の泉健太代表が「国民民主は兄弟政党」と秋波を送っても、一方の国民民主はあさっての方向を見ている。
憲法改正論議など国会で足並みを揃える維新が圧倒的に強い関西では、国民民主は維新に接近し、参院選での連携で具体的に動き始めている。
「国民民主の前原誠司選対委員長が、地元の京都で積極的に候補者探しを進めている。国民民主より維新の看板の方が勝機があるので、維新公認で国民推薦という形もあるのかもしれない。京都は改選議席が2。現職は自民と立憲民主だが、前原氏は立憲民主の福山哲郎前幹事長を落としにかかっている」(地元政界関係者)
さらに、国民民主は東京では小池百合子都知事が顧問を務める「都民ファーストの会」(国政はファーストの会)との連携を加速させている。合同の勉強会を開き、選挙協力についても玉木雄一郎代表は「政策的な一致の先にあるのなら排除するものではない」と明言している。
「玉木代表は存在感を示すためにもより保守に近い新たな野党結集を企んでいる。とにかく共産を外せと立憲民主に迫っているが、泉代表はこれまでの野党統一候補の経緯などを考えるとそう簡単には決断できない」(立憲民主ベテラン議員)
かくして、立憲民主と国民民主が足並みを揃えて参院選を戦うことになるのか、いまだに方向は固まっていない。
そうなると連合は参院選で股裂き状態になるが、その混乱のきっかけは吉野会長の「共産はNO」発言でもある。このまま行くと組織内候補の獲得議席を減らすことになるのではないか。
「国民民主が独自路線を歩き始め、立憲民主が苦悩している。結果、与党を利するだけ。こういう時こそバックにいる連合がまとめる役割を果たすべきではないか。共産を切り離すような原理原則ではなく、むしろ圧力をかけてしたたかに国民民主、立憲民主、共産など他の野党まで結集のレールを敷く。かつての組合には策士や剛腕な連中がいて動いたものだが…」(旧総評系幹部OB)
非正規雇用が拡大し、大企業正社員中心の連合が労働者全体を代表しないと言われて久しい。結成から30年超。連合は労働運動も政治活動においても曲がり角にきている。
「労働界再編の連合のスケールメリットはやはり大きい。旧総評と旧同盟に戻ってしまえば発信力や発言力が低下する。地域によっても事情が異なり、簡単には分裂しない」と連合関係者は言ったが、組織として危機にあるのは間違いない。
半年後の参院選 連合に深刻な分裂の危機 |
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【小塚かおるの政治メモ】組織内候補が立憲、国民に分裂立候補へ
公開日:
(政治)
連合本部=PD
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小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
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