「またしても『小池劇場』の演出にしてやられた」
7月4日投開票だった東京都議選の結果を受け、自民党内からはこんな恨み節が上がっている。
事前の自民党やメディアの情勢調査では、「自民は50議席獲得の勢い。自公で過半数は確実」とされ、小池百合子都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会(都民ファ)」は「10議席台か下手すれば1ケタの惨敗」との予想すらあった。
ところが、告示直前に極度の過労で入院した小池氏が同情票を集めただけでなく、投票日前日に都民ファ候補者を応援して回って存在感をアピール。その結果、都民ファが息を吹き返し、自民は第1党には返り咲いたものの、過去2番目に少ない33議席の獲得にとどまり、都民ファは31議席と肉薄、自公で過半数を逃した。
つまり、選挙戦終盤での小池知事のしたたかな動きと計算に翻弄され、自民は想定外の敗北を喫した――というのが、冒頭の恨み節である。
確かに、そうした「小池劇場再来」の一面はあった。しかし、「小池知事のせいだ」とばかり言っていたら、自民党は敗因を見誤る。
自民党の最大の敗因は、自民党支持者の反乱だ。
新型コロナウイルス対策への不満、ワクチン接種の混乱や供給不足への怒り、再びの感染拡大が予想される中での東京五輪開催への懸念、といった菅義偉政権に対する当たり前の感情は、自民党支持者だって抱えている。
選挙に詳しい自民党のベテランが、「どんな選挙も結局、『自民党が良いか、自民党は嫌か』というのが有権者の投票基準なんですよ」と言っていたが、まさに今回の都議選では自民党支持者が『自民は嫌だ』という意思表示をしたのである。
それは過去2番目の低投票率(42.39%)にも関わらず、自民党の獲得議席が伸びなかったことで説明がつく。
都民ファ大躍進でまさに「小池劇場」だった前回2017年の51・28%と比べ、今回の投票率は8・89ポイントも下落した。ここ20年くらいで見ると、都議選では投票率が50%を超えるかどうかが、有権者の関心度合いを測るひとつのライン。
今回は、かなり関心が低く、「いつも投票に行く人だけが投票に行った」(選挙関係者)と見るのが妥当だ。
一般に、投票率が低くなれば組織政党が有利とされる。かつて2000年の衆院選で森喜朗首相(当時)が「無党派層は寝ていてくれればいい」と発言したように、業界団体や党員の組織票を頼りにする自民党にとって低投票率は歓迎で、過去3回あった投票率40%台の都議選で、自民党は40議席台後半~50議席台という結果を残している。
ところが、低投票率なのに今回は違った。それは、なぜか。
報道機関が、投票を終えた人(つまり、低投票率の中でも投票へ行った人)に実施した出口調査を見ると興味深い。
例えば、読売新聞。支持政党は自民党が33%で圧倒的トップ(2番目は立憲民主党の11%)。しかし、その自民党支持層のうち自民の候補に投票したのは57%にとどまり、19%が都民ファ、4%が立憲民主などへと流れていた。
公明党支持層は88%が公明候補へ、共産党支持層は83%が共産や共闘した立憲民主の候補へ投票し、立憲民主党支持層でさえ、66%が立憲民主や共産の候補に投票していた。いかに自民党支持層の〝歩留まり率〟が悪いかが分かる。
自民党は自らの支持者を6割弱しかつなぎ留められなかったということ。自民党は支持者からNOを突き付けられたということだ。
ちなみに大苦戦と言われた公明党が、得票数を大きく減らした中で辛くも「全員当選」達成できたのは、低投票率が有利に働いたからだ。
事前の甘い情勢調査を信じて、投票日前日まで楽観的な見通しだった菅政権や自民党には、いま激震が走っているが、支持者の信頼を回復することなくしては、秋の衆院選も悲惨な結末を見ることになる。
都議選 低投票率なのに自民苦戦 敗因は自民党支持者の反乱 |
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【小塚かおるの政治メモ】自民支持のうち自民へ投票は57%
公開日:
(政治)
小池知事(左)と菅首相=NHKより
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小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
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