河野太郎ワクチン担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4人が立候補した自民党総裁選(29日投開票)は、安倍晋三前首相が高市氏を全面支援し、麻生太郎財務相は自派閥の河野氏を冷たく突き放すことはないものの、実態は岸田氏支持だ。
議員票と党員票の比率が同じ最初の投票で河野氏が1位になったとしても、4人の混戦の中で過半数を獲得するのは難しく、決戦投票となれば、2位・3位連合で河野氏勝利を阻止――。盟友関係の安倍・麻生両氏はそんな思惑だ。中堅・若手の抵抗もあり、各派閥が自主投票になったと言っても、相変わらずの長老支配の構図が続いている。
一方で、よく見えないのが、もう1人の長老・二階俊博幹事長の動向である。
二階派は推薦人を、河野氏、高市氏、野田氏の3陣営に分散。岸田氏には推薦人を出さず、「岸田NO」だけはハッキリしている。岸田氏が出馬表明した最初の記者会見時に、党改革として「役員任期の1期1年、連続3期まで」を掲げ、事実上の二階幹事長外しを打ち出したことが、根深い恨みになっていることが分かる。
告示日前日ギリギリになって野田氏が出馬にこぎ着けられたのは、二階派が8人もの推薦人を出したことが大きい。これについては、「二階派が河野氏の一発勝利(決選投票なし)を阻止した」という解説が多いが、ならば二階派は決戦投票の結果、岸田氏が勝利してもいいのか、という矛盾が生じる。
いつも真っ先に勝ち馬に乗り、勝者を見定める嗅覚がバツグンの二階派が、今回ばかりはどうやって勝ち馬に乗るつもりなのか、どうにも見えてこないのである。
二階氏個人について、聞こえてくるのは、河野氏が党本部で立候補の決意を報告した際に「頑張れ」と応じたとか、党改革をめざす若手・中堅の「党風一新の会」の福田達夫衆院議員らが面会した際に「自民党は若い人が新しいことをやる党だ。どんどんやれ」と激励したというもの。まるで好々爺のごとし、なのだ。
そこで、こんな見方が上がる。
「今回の総裁選は、二階さんが二階派を主導しているようには思えない。二階派は権力闘争においては、これまでどの派閥よりも一致結束した行動を取ってきた。今回は、二階さんの最側近である林幹雄幹事長代理や武田良太総務相がそれぞれの判断でそれぞれに動いている。二階さんは元気をなくしてしまったのか、旗を振っていないのではないか」(二階派関係者)
82歳の二階氏については、依然、引退説が燻り続けている。選挙区のある和歌山県は、人口比に合わせた区割り変更の実施が確実な次々回の衆院選(今秋ではなく)で、定数が現在の3議席から2議席に減る見通し。二階氏の意中の後継者は秘書をしている三男とされるが、議席を譲るなら定数減となる前の今秋がチャンスで、解散前後など選挙直前になって引退を表明する可能性がまだ残る。
総裁選での二階派の〝迷走感〟に、こうした背景があるとすると、では、二階氏という重しがなくなったら、二階派はどうなるのかだが、実はウルトラCとして、ワンポイントで「菅派」への移行という観測が浮上している。
武田氏は派閥領袖を目指して、派内の若手の面倒を見るなど着々と準備を進めている。ただ、53歳でまだ「次」は早いうえ、派内には異論もある。そこで、ワンポイントとして72歳の菅義偉首相が退陣後に二階派に合流し、一旦、「菅派」になる。菅氏は武田氏とは良好な関係。無派閥の菅グループはかつてより人数が減ったとはいえ、20~30人を連れて合流すれば、二階派拡大にもつながる――というものだ。
総裁選では菅氏は河野氏支持を公表した。武田氏も河野氏支援で実際には動いている。
つまり、結局はやはり、「岸田・高市を支援する安倍・麻生VS河野を支援する菅・二階(武田)」というキングメーカー争いの構図になっているということ。
立候補した4人の論戦は、テレビ討論などを見ると白熱している。自民党の次世代人材や政策の分厚さなどをアピールする格好の場となっているが、その裏には変わらぬ派閥政治と長老支配が横たわっている。
次期総裁は次期首相とはいえ、あくまで自民党という一政党のコップの中の権力闘争。110万人の党員・党友にしか投票権はない。自民党員ではない約99%の有権者にとっては、この後、10月か11月に必ず実施される衆院選が意思表示の場だ。総裁選のお祭り騒ぎには、冷静な目を持ちたい。
総裁選 動向が見えない二階幹事長と二階派の行方 |
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【小塚かおるの政界メモ】ワンポイントで「菅派」への移行があるのか?
公開日:
(政治)
Reuters
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小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
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